研究課題
平成30年度は,昨年に引き続き,無節サンゴモのヒライボと有節サンゴモのピリヒバを用いた生育実験を行った。ヒライボの発芽体では,天然海水を用いた栄養塩実験を行った。研究を行った広島大学水産実験所で利用している地先の海水について,事前に栄養塩濃度を調査したところ,年間を通して,硝酸塩濃度は4 μM程度であった。そこで,平成29年度は,硝酸塩を除いた人工海水を用いて,低濃度の硝酸塩での成長を観察した。ただし,人工海水で海藻を培養した場合,天然海水に比べて,成長が抑制されることが指摘されているので,平成30年度は,天然海水に硝酸塩濃度を添加して実験を行った。2週間の培養による日間相対成長率は,硝酸塩濃度4.2-26.7 μMの範囲で,5.4-11.2 %の値を示した。日間相対成長率と濃度の関係をMonod growth expressionで曲線近似し,低栄養塩濃度における栄養塩利用の効率を示す指標KsとVmax/Ksを算出し,天然海水と人工海水による実験結果と先行研究について比較した。天然海水と人工海水のいずれの場合も,ヒライボのKsとVmax/Ksは,本研究と同様な方法で研究されたエゾイシゴロモの発芽体ほど,低い硝酸塩濃度への適応を示さなかった。一方,ヒライボの硝酸塩要求性は,他の海藻類と同様であった。ピリヒバの成体については,Imaging-PAMを用いて,光合成速度としてrETR,ストレスの度合いを示すNPQなどの値を以下の条件で測定した。1)20度,2)20度から25度に昇温した場合,3)25度から30度に昇温した場合の3条件で行った。昇温によって強光阻害が見られる個体と,そうでない個体があり,平常時とストレス反応における差が十分に解析できなかった。
3: やや遅れている
昨年度と今年度で,サンゴモ類の成長への温度,光量,栄養塩の影響について研究を進めることができたが,発芽体の生育上限温度については,生死判断の方法に課題がある。ヒライボの発芽体を用いて,生育上限温度の実験を行ったが,生育適温の20 ℃においても,UV照射による葉緑体の自家蛍光の観察を数日おきに行うと,次第に自家蛍光が見られなくなることがわかった。そこで,高等植物や海藻類の生死判断に使用されているEvans Blueによる生死判断を試みたが,生細胞と死細胞の染色の度合いに十分な違いが見られなかった。そこで,来年度は,染色液や方法の検討または,実験開始後の1-2日後に全個体の自家蛍光の観察を行うことによって生死判断を行いたい。
平成31年度は,有節サンゴモの発芽体と成体について実験を行う。まずは,エチゴカニノテの発芽体について,生育適温試験と生育上限温度試験を行う。エチゴカニノテは,すでに実験を行った無節サンゴモのヒライボと同様,夏に成熟し,胞子を放出する種である。そのため,温帯域の代表的な有節サンゴモであるこの種を用いて温度への反応を観察する。また,冬に成熟するピリヒバ発芽体について生育適温試験を行い,成熟時期による生育適温の違いを把握する。
平成31年4月に韓国で開催されるInternational Seaweed Symposiumに参加する旅費等の決済を平成30年度中に行わなかったため,次年度使用額が生じた。残額は,大会への参加旅費に充てる。
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Algal Resources
巻: 11 ページ: 11-23
海洋と生物
巻: 40 ページ: 233-242
月刊海洋
巻: 50 ページ: 237-246