研究課題/領域番号 |
17K07911
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山口 明彦 九州大学, 農学研究院, 助教 (10332842)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物性脂肪酸 / 中鎖脂肪酸 / フィードバック / アロマターゼ / 下垂体 / 性ステロイドホルモン / 5アルファ型還元酵素 |
研究実績の概要 |
多くの中・大型魚は初回成熟までに長い期間を要し、飼育環境下で雌の成熟が雄より遅れるため、なるべく短期間の飼育で小型の成熟個体を得る技術開発が期待されている。トラフグでは、雄は2年、雌は3年で成熟するが、雌の初回成熟を制御できれば、多くの有用魚種での早期成熟促進技術への応用が考えられる。昨年度までの研究でココナッツ油を未成熟雌トラフグ腹腔内に投与することにより、血中テストステロン(T)上昇を導くことが明らかにした。今年度はさらにT→ジヒドロテストステロン(DHT)変換酵素である5αリダクターゼ(5AR)を阻害するノコギリヤシ抽出物および競合阻害剤(フィナステロイド)投与区を比較することにより、ココナッツオイル効果の確証実験を行った。 脳型アロマターゼ(cyp19a1b)はプロモータ領域にエストロゲン受容体応答配列をもち、Tの連続的な配給下では自己増幅し局所的なエストロゲンの合成を行うことが知られている。そこで、下垂体へのTフィードバック活性は、黄体形成ホルモン(LH)細胞に発現するT→E2(エストロゲン)変換酵素であるアロマターゼ(CYP19a1b)のmRNA量を定量PCR法によって検出し評価した。また卵濾胞の発達はパラフィン切片観察と卵径測定により解析した。生殖腺を切除した個体に関しても同様の実験を行った結果、上昇したテストステロンは卵巣由来であることが明らかになった。 昨年までの結果と総合すると、未成熟トラフグへのココナッツ油の投与は、哺乳動物で知られるT→DHT阻害効能をもつ薬剤やサプリメント成分と同様の働きをもつと考えられた。またココナッツ油は魚類では卵濾胞の発達に伴うTフィードバックを活性化させ、下垂体CYP19/LH細胞の増殖を誘導することで早期成熟を促進する効果をもつと期待できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物の性成熟時には性ステロイドホルモンのフィードバックが引き金となり、生殖腺の急激な発達や性行動を引き起こすことが知られている。しかし実験により過剰な性ホルモン投与により引き起こされた現象がどの程度信頼がおけるものかは明らかでない。本研究では中鎖脂肪酸に富む食用油(ココナッツ油)が下垂体へのTフィードバックの活性化に有効であることを示した。下垂体では局所的なエストロゲン合成が起きることで、ホルモン産生細胞の増殖や機能が調整されることが予想できた。 ココナッツ油の投与により1歳魚トラフグ未成熟卵巣で合成されるテストステロンが上昇することが明らかになった。しかし0歳魚では雌雄ともにほとんど効果が見られなかった。これは生殖腺の発達段階での5AR活性の違いと予想された。トラフグから3種類の5AR遺伝子(srd5a1,a2,a3)cDNAのクローニングを行い、その発現パターンを調査した結果、srd5a1,a2は全ての組織で発現していたが、srd5a3は卵黄形成前の未成熟卵巣にのみ顕著な発現が見られた。srd5a1-3は哺乳動物にも保存されているが、srd5a3は5AR活性は持たないことが報告されている。しかし魚類では研究例が乏しく明確な結論が出ていない。そこでトラフグsrd5a3のの5AR活性を詳細に調査する必要が生じた。トラフグsrd5a3が5AR活性持つならば、卵巣内でTの上昇を抑え長期間成熟を抑制する原因遺伝子である可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度はトラフグへの植物油脂の腹腔内投与実験で得られた結果をin vitroで再現する細胞培養アッセイ系を構築する。トラフグ5AR遺伝子(srd5a1,a2,a3)cDNAを哺乳動物発現ベクターpCDNA3.1へクローニングし、COS1細胞で発現させ5AR活性の有無を明らかにする。ELISA法により細胞抽出物に含まれる5AR活性(Tを基質としたDHT変換活性)を測定する。またラウリン酸を代表とする中鎖脂肪酸を細胞抽出物混合し5AR活性の阻害効果を確認する。これらの実験によりココナッツ油のどの成分が5ARを阻害するかが明確になる。 生体への投与実験の解析には限界があるため、現在多検体でフィードバック効果の解析を行う下垂体スフェロイド培養系を開発中である。開発後、脂肪酸投与個体等の血清を用い均一なスフェロイドを培養することでアロマターゼや他のホルモン遺伝子の発現に有効な植物油の脂肪酸組成を明らかにしていく。最終段階としては、成熟までに費やす期間の長い有用魚種(クロマグロ、チョウザメ等)の早期成熟誘導に効果的な中鎖脂肪酸構成を含む飼料デザインが可能となると期待できる。
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