トラフグ(♀)を中・大型魚種のモデルに用い早期初回成熟を誘導する目的で、様々な植物油脂を生体投与し血中ステロイドホルモンと下垂体で合成・分泌される黄体形成ホルモン(LH)産生細胞との関係を調査した。 ①ココナッツ油(CO)および5a型還元酵素(5AR)活性の阻害効果が知られるノコギリヤシ抽出物(SPLE)とフィナステロイド(FIN)の腹腔内投与により血中テストステロン(T)量の増加を促進させた。またCO投与群でのみ卵黄形成の誘導が確認できた。これは哺乳動物で確認されている植物由来の油脂(CO・SPLE)の5AR阻害効果を示した魚類で初めての報告となる。飽和脂肪酸に富む植物油(ヒマワリ油・パーム油)は内臓脂肪を増加させた。一方、中鎖脂肪酸に富むCOとパーム核油は脂肪の蓄積は認められなかった。この結果は単に脂肪量の増加が成熟に関わる性ステロイド合成の要因ではない事を示した。また本研究結果はヒトで知られる中鎖脂肪酸のダイエット効果の魚類への応用の可能性を示すものである。以上の結果は、COは生殖腺で5ARを阻害するだけでなく、SPLEやFINにはない付加的作用があり卵黄形成を促進させたと予想される。 ②下垂体CYP19/LH細胞の免疫組織学およびin situ hybridizationおよびqRT-PCR解析により、COは生殖腺で合成されるTを増加させ下垂体へフィードバックさせることで、CYP19/LH細胞の増殖を促進する効果がある事を確認した。初回成熟のLHの急速な合成と大量分泌にはCYP19/LH細胞の増加が必須である。卵巣でのE2合成に先立つ血中Tの増加が雌トラフグには必要と考えられる。結論としてCO投与のみでは1年前倒し(2歳雌)で完全な初回成熟誘導はできなかったが、今後中鎖脂肪酸を利用した新たな配合飼料開発がLH細胞の増殖を介した誘導法が早期成熟に有効である事を示した。
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