アワビや魚類の種苗生産では、著しい成長差が生じることが知られているが、その要因については不明な点が多い。本研究は腸内細菌叢の代謝系がアワビの成長差に与える影響の解明を目的とした。アワビ腸内細菌叢の解析を培養法と培養を介さない遺伝子に基づく方法の2つのアプローチで総合的に進めた。 クロアワビ種苗を対象にした培養法による解析では、アワビの成長が停滞する夏期にビブリオ属のアルギン酸分解菌の割合が低下することが明らかとなった。これは宿主の成長と腸内細菌叢の相関を経時的に明らかにした点で重要な知見となった。また、アワビの食性が珪藻食から褐藻食に変わる前後での腸内細菌叢を解析したところ、腸内からの単離株のうちアルギン酸分解菌の割合は、褐藻食開始2週間で急激に上昇することがわかった。一方、16S rRNA遺伝子に基づく腸内細菌叢の解析では、大・小個体で優占する細菌種に明らかな違いが観察された。 最終年度は、これまでの研究を踏まえ以下の3項目について研究を進めた。①生育環境が腸内細菌叢に与える影響の評価。②平成30年度までに得られた単離株の16S rRNA遺伝子配列の決定。③16S rRNA遺伝子に基づく腸内細菌叢の解析とトランスクリプトーム解析。①について、珪藻食期を海上で過ごすか、陸上水槽で過ごすかの違いが腸内細菌叢に与える影響を調査し、食性変化期から夏期にかけては腸内細菌叢に違いがあるが、冬期には差がほとんどなくなることが明らかとなった。②の結果からは、ビブリオ属のアルギン酸分解菌が食性が褐藻食に変わる前から少ないながら存在し、その後種数、生菌数とも増加することがわかった。③については、大・小個体で比較したところ、アルギン酸分解酵素群の発現に違いは認められなかったが、大・小個体の発現遺伝子、および16S rRNA遺伝子には明確な違いが認められ、腸内細菌叢と成長の相関が明らかとなった。
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