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2020 年度 実施状況報告書

ブリをモデル生物として用いた浮魚類の産卵行動測定手法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 17K07913
研究機関長崎大学

研究代表者

河邊 玲  長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80380830)

研究分担者 中村 乙水  長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 助教 (60774601)
征矢野 清  長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80260735)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2022-03-31
キーワード特異的鉛直遊泳 / ブリ属魚類 / ブリ / カンパチ / 相対エントロピー / バイオロギング / 高速遊泳
研究実績の概要

【野外行動調査】平成31年度までに放流した標識ブリのうち、令和2年4月までに5個体について再捕報告があり、最長で8ヶ月の遊泳行動記録を得た。
【データ解析:ブリ】3-12月の記録が取得できた2個体は、対馬海峡南部から五島灘を経てトカラ列島の間を南北方向に移動したが、既往知見のような日本海を南北方向に長距離回遊することはなく、九州西岸で長期滞留する個体群がいることが示唆される結果となった。3-6月までは五島灘で表層混合層(10-25m)に滞在していたが、7月中旬に表層から水温躍層下部に生息深度を変えた。特に最も南下した個体は8-9月にトカラ列島周辺の黒潮縁辺部にて表層には全く出てこなかった。これは夏季の海面水温の上昇により、高水温である表層混合層を避けて生息適水温へ移動したことによると示唆される。
【データ解析:カンパチ】
別プロジェクトで得たブリ属カンパチ成魚(雄:3個体、雌:2個体、記録期間:135-258日)の産卵期間を含む深度・水温データ(時定数:1秒)を用いて、短期スケール(深度差分値の相対エントロピー)での深度および経験水温変化に注目して解析した。相対エントロピー値が高い、すなわち急速な深度変化(特異的深度変化)は2-4月の産卵期に集中して出現した(10-48回/個体)。この遊泳は日出直後を中心に午前中に出現し、高速(平均上昇速度:2.7±0.7 m/s)で大きな深度変化(70±14 m)で特徴づけられる。他種の産卵を伴う鉛直遊泳と比べると、カンパチの上昇速度は5-10倍速く、高さはオヒョウ(168±9 m)
ほどではないが、ヒラメよりはかなり高かった。日周鉛直移動が産卵期だけに出現したこと、解析した特異的深度プロファイルは他種(Seitz et al 2005)に類似していたことから特異的鉛直遊泳は底魚類以外でも抽出できることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

カンパチの解析結果からは昨年度解析した雄成魚に加えて雌2個体からも同様の特異性(産卵期に特化した日周的鉛直遊泳の出現、高速および大きな深度変化を伴う鉛直遊泳)を確認できたことから、これは、1)産卵期にだけ特徴的な遊泳であること、2)高速で大きな深度変化は雌雄が同調して放卵と放精に至る繁殖行動である可能性が高いこと、を示唆している。高速で雌雄が同調して浮上する繁殖行動は飼育下のカンパチ親魚をはじめ多くの魚種で確認されていることから、繁殖行動を抽出できた可能性は高く本研究の当初の目的は、同じブリ属のカンパチを対象にほぼ達成されたと考える。
また、一昨年度末までに放流したブリのうち5個体から再捕報告があり、当初計画の通りに進まず時間を要したがようやくデータ長・個体数ともに解析に耐えうるデータセットを確保できた。すでに解析を先行させて、大変興味深い結果を得ているカンパチの結果にならい、これら5個体については令和3年度に同様の解析を進めることにより、種を超えて普遍的な特異性を有するか、あるいは、ブリ特有の鉛直遊泳を行っているかを確認する予定である。

今後の研究の推進方策

当初の計画では令和元年度で本研究課題は終了の予定であったが、コロナウイルスの感染拡大により、成果発表を目指した学会が中止になるなど十分な成果発表を行うことができなかった。したがって、令和3年度は学会発表と成果の論文化とそれに直結するデータ解析に傾倒する。
【データ解析】
カンパチについては、抽出された特異的鉛直遊泳の全てが繁殖行動と考えるのは疑わしい。そこで、抽出された遊泳の出現周期および遊泳速度と深度変化値を用いて、鉛直遊泳のスクリーニングを行うことでさらなる選抜を試みる。特に雌は飼育下で野排卵周期を考慮してスクリーニングを行う。また、一昨年度末までに放流したブリのうち5個体から再捕報告があり、当初計画の通りに進まず時間を要したがようやくデータ長・個体数ともに解析に耐えうるデータセットを確保できた。すでに解析を先行させて、興味深い結果を得ているカンパチの結果にならい、これら5個体については令和2年度に同様の解析を進めることにより、種を超えて普遍的な特異性を有するか、あるいは、ブリ特有の鉛直遊泳を行っているかを確認する。
【成果公表】
カンパチおよびブリのデータ解析を年度前半までに完了してコロナウイルスの感染拡大状況を鑑みて、可能であれば関連学会にて発表する。また、年度の後半には論文の作成を行い、可能な限り年度末までに関連学会誌に投稿する。

次年度使用額が生じた理由

学会での成果発表で旅費を使用することを想定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により参加予定の学会の開催が中止となり未使用額が生じた。次年度はこの未使用額を学会での参加旅費として使用する計画としている。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020

すべて 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)

  • [学会発表] 九州西岸から放流したブリの水平・鉛直移動2020

    • 著者名/発表者名
      工藤謙輔, DongHyuk Kim, 刀祢和樹, 中村乙水, 米山和良, 莚平裕次, 征矢野 清, 阪倉良孝, 河邊 玲
    • 学会等名
      令和2年度日本バイオロギング研究会第16回シンポジウム(オンライン開催)
  • [学会発表] 東シナ海の温暖化と回遊魚:シイラとブリの行動計測から温暖化影響を知る2020

    • 著者名/発表者名
      河邊 玲
    • 学会等名
      令和2年度長崎県五島市定置漁業協会総会研修会
    • 招待講演
  • [学会発表] 東シナ海の温暖化と回遊魚:シイラとブリの行動計測の事例2020

    • 著者名/発表者名
      河邊 玲
    • 学会等名
      令和2年度長崎県定置漁業協会総会研修会
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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