研究課題
H29年度は紅藻スサビノリ葉状体と海草アマモからそれぞれ分離された付着細菌Neptunomonas属細菌(それぞれBPy-1とBZm-1株)は富栄養なマリンブロス培地だけでなく,炭素源や窒素源を含まない人工海水中でもトリプトファン添加によりIAAを培地中に分泌した。後者の特性は貧栄養な天然海水中に生育する植物の付着細菌の特性を反映していると推定された。この特性の普遍性を調べるために,スサビノリ葉状体からMaribacter sp.BPy-M1を分離し,IAA合成の至適条件を調べた結果,BPy-M1はマリンブロス培地ではIAA合成能は低いが,人工海水培地では高い合成能をもつことがわかった。スサビノリ葉状体には8種以上の付着細菌がついているがIAA合成条件は細菌種により異なることが推定された。海草付着細菌として分離されたNeptunomonas sp. BZm-1はスサビノリ葉状体の成長を促進したが,アマモに対する効果は検証されていなかった。BZm-1だけでなくスサビノリ付着細菌BPy-1やBPy-M1のアマモに対する効果を調べるために今年度はアマモ無菌培養株を分離した。アマモ無菌株は8ヶ月以上安定的に維持されており,次年度は付着細菌の単独培養およびスサビノリやアマモとの共存下での細菌によるIAA合成の調節機構を明らかにする。
3: やや遅れている
研究当初は紅藻スサビノリ付着細菌のインドール酢酸合成について焦点を当て,ホストであるスサビノリと付着細菌のIAA合成における相互作用を調べることを計画していたが,安定的なスサビノリ無菌株の作成が遅れており,並行してアマモ無菌株の作出も進めて来た。今年度アマモ無菌株の作出に成功し,30の無菌株が8ヶ月以上安定して維持されている。しかし,いずれも側根は発達しているが,地下茎は形成されていないためクローン株は産生できない。現時点では実験に制約があり,地下茎の形成条件を検討する必要がある。
宿主植物と付着細菌におけるインドール酢酸合成における相互作用については,種子植物とリゾビウムにおいて研究が進んでいるが,紅藻付着細菌についてはホストであるスサビノリのIAA 合成経路遺伝子が部分的に欠落し,付着細菌との相互作用により進行しているのではないかという発想に基づき研究を開始した。スサビノリと異なり,アマモは種子植物のIAA合成経路をもつことから,種子植物のIAA合成や代謝の阻害剤を用いることにより,付着細菌とアマモのIAA合成における相互作用が推定できる。クエン酸処理により無菌化スサビノリと付着細菌の共培養におけるIAA合成に対する阻害剤の効果をアマモの場合と比較することにより両者の違いを推定したい。
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Archives of Microbiology
巻: 200 ページ: 255, 265
10.1007/s00203-017-1439-1