浮遊性甲殻類のアキアミ類について、遺伝的多様性、系統群分離および分子系統解析について調査した。アキアミについて新たに設計したミトコンドリア(mt)DNAの調節領域(CR)を標的として塩基配列分析から遺伝的に独立した10集団が見出された。つまり幼生期および成エビのいづれでも灘を超えるような大きな移動しないと考えられた。塩基多様度で観察した遺伝的多様性は、日本海西部や瀬戸内海および有明海など西日本地方で低く、中部および東日本地方では高い傾向であった。一方、海外の標本では台湾だけが高く、タイ、インドネシア、マレーシアでは低い傾向であった。日本国内で初めて確認された沖縄産ジボガアキアミA. sibogae sibogaeについて海外の標本を加えて遺伝的多様性と系統群分離をmtDNACRの塩基配列分析で試みた結果、すべての地域が遺伝的に独立した集団であることが明らかとなった。塩基多様度による遺伝的多様性は北限である沖縄集団が最低を示し、その他では中程度であった。同じ甲殻類であるハクセンシオマネキ、オキナワハクセンシオマネキ、シマイセエビ、オオテナガエビについても系統群分離と遺伝的多様性について調査した結果、浮遊期間が300日以上のシマイセエビではマイクロサテライトDNA解多型解析でも遺伝的に均質であったが、その種では複数の系統群が見出された。オキナワハクセンシオマネキに関しては生物地理のウォーレス線と同様に東西で遺伝的差異が明らかになった。最後にインド・太平洋のアキアミ類について分子系統解析を実施した結果、Omori(1970)の形態データに基づいた系統樹と一致していた。以上のように幼生の浮遊期間が一か月未満で強い海流の影響がない地域では遺伝的分化して系統群として資源管理の単位を明らかにできた。大西洋産アキアミ類を入手してさらにアキアミ種群の種分化についてはさらなる研究が必要である。
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