今年度もトラフグ受精卵の入手を試み、4月に長崎県水産総合試験場のご協力の下、人為催熟した親魚3ペア由来の受精卵を提供していただいた。北里大学海洋生命科学部まで輸送し、実験に供したものの、全ての個体が孵化後約1週間で死亡した。そのため、最終目的である寄生虫フリーのトラフグの作出には至らなかった。そこで当初の方針を変更し、寄生虫ヘテロボツリウムの宿主認識因子であるマンノース結合IgMに関して、トラフグ発生初期における発現解析を行った。 未受精卵および受精後1時間後~150時間後までの胚計11ステージ、および孵化後0,2,3,4,5日後の仔魚から、mRNAおよびタンパク質を抽出し、RT-PCRおよびウエスタンブロッティングによるIgMの検出を試みた。加えて、水産研究・教育機構 増養殖研究所 南伊豆庁舎より供与いただいた孵化後8日目の仔魚および57日目の稚魚についても同様の解析を行った。その結果、IgMのmRNAは、孵化後57日目の稚魚においてのみ検出された。一方、コイやニジマスなど、多くの魚種の卵中に存在することが知られているIgMタンパク質は、トラフグ未受精卵からはもとより、解析に供した全てのサンプルから検出されなかった。このことから、トラフグのヘテロボツリウム感受性は、少なくとも受精後57日後の稚魚期までは獲得されないことが示唆された。
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