研究課題/領域番号 |
17K07927
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
岡崎 雄二 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 東北区水産研究所, 主任研究員 (90392901)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 仔稚魚 / 食性 / 窒素・炭素安定同位体比 / 成長 |
研究実績の概要 |
今年度は、主要餌料生物となるカイアシ類、枝角類、尾虫類などの安定同位体試料作成を行い、窒素・炭素安定同位体比分析を実施した。これら動物プランクトンの窒素・炭素安定同位体比は、イワシ類仔稚魚3種(マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシ)と同様に1月から2月にかけて低く、3月以降に高くなる傾向にあった。また各動物プランクトン分類群の窒素・炭素安定同位体比に違いはあるが、季節的な変動パターンはほぼ同期していた。さらにこれら動物プランクトンとイワシ類仔稚魚の安定同位体比より、各採集日における仔稚魚の餌資源を混合モデルを用いて推定した。その結果、イワシ類仔稚魚は、主にカラヌス目カイアシ類を餌資源としていたが、採集日によってはポエキロストム目カイアシ類や尾虫類を主な餌資源にしていた。一方、同時に採集されたイワシ類3種の餌資源に大きな違いは認められないことから、3種の食性の差異は小さいことが示唆された。 消化管内容物の分析結果よりイワシ類仔稚魚はParacalanus属などのカラヌス目カイアシ類を主に摂餌しており、採集日によってはOncaea属やCorycaeus属などのポエキロストム目カイアシ類を多く摂餌していた。これらの結果は安定同位体比から得られた餌資源推定の結果とも整合的であり、小型カイアシ類がイワシ類仔稚魚の主な餌生物と考えられた。安定同位体比から推定される餌資源は過去の累積的な摂餌状態、また消化管内容物は採集直近の摂餌状態を表すことから、両者の類似性の程度は餌環境の変動性を表す可能性がある。 一方環境中の餌料プランクトンの個体数密度は、調査期間通してParacalanus属が最も高く、次にOithona属カイアシ類が高くなった。Oithona属はイワシ類仔稚魚の消化管内容物からはほとんど出現していないことから、イワシ類仔稚魚は選択的な摂餌を行っていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までは主に仔稚魚の各種分析(同位体分析、消化管内容物分析および耳石分析)を進め、今年度はこれらのデータ解析を行った。また今年度は、動物プランクトンデータの解析を進め、環境中の餌料プランクトンについては種組成やその季節変動について明らかにして、仔稚魚の食性と環境中の餌料プランクトンの対応関係についても解析を進めた。さらに動物プランクトンの窒素・炭素安定同位体比についても分析を行ったが、分析用の動物プラントン試料準備が想定より時間を要したため、動物プランクトンの窒素・炭素安定同位体比のデータについては現在解析を進めているところである。また、耳石分析については結果の一部に再分析の必要が生じたが、分析装置の不具合のため年度内の再分析が実施出来なかった。そのため、年度内にすべてのデータセットを揃えてデータ解析を進めることは難しく、年度内の研究完了が困難になったため、研究期間を1年延長した。 以上のように研究期間の延長に伴い一部計画の変更を行っているが、試料分析に関してはほぼ終了し、データ解析についても順調に進めており、さらに関連する論文や学会の発表を行うなど研究目標は概ね達成された。
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今後の研究の推進方策 |
仔稚魚の耳石分析については、年度内の分析装置の復旧が難しいため、所属研究機構内にある分析装置と画像解析ソフトを用いて再分析を進める予定である。仔稚魚および動物プランクトンの安定同位体比のデータセットについては分析ソフトを用いて食物網構造を推定する。これらの安定同位体比より得られる食物網構造の各パラメーターと耳石解析から得られる成長との関係、成長と摂餌状態の関係、摂餌状態と餌料プランクトンとの関係を魚種毎に解析して、現場海域における仔稚魚の成長変動に対する餌料環境の影響を評価することで、最終的な研究目的である仔稚魚自身から得られる摂餌情報を用いて仔稚魚の成長変動への影響を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料の再分析などのために研究期間延長申請を行っており、その試料の分析の際に必要な旅費や物品費などを計上するために、2019年度予算の一部を繰り越した。
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