今年度は成長解析と食物網構造解析を中心に行い、成果の統合を進めた。耳石による成長解析では、イワシ類3種の日齢毎の輪紋幅の平均値を算出して、各日齢の輪紋幅のラグ相関を魚種別に求めた。その結果ウルメイワシの自己相関係数はマイワシ・カタクチイワシより高い値が長い期間続く傾向にあった。高い自己相関の継続は成長の良否を長く引きずる事を意味しており、ウルメイワシは他2種と比較して個体間の成長差が拡大しやすいと考えられた。このような種間での成長応答性の違いはイワシ類資源のダイナミクスと関連している可能性があり興味深い。 一方、食物網構造解析では動物プランクトンとイワシ類仔稚魚の窒素・炭素安定同位体比を用いて各種食物網構造の指標を算出した。動物プランクトンと仔稚魚の窒素・炭素安定同位体比は季節的な変動パターンを示していたが、食物網構造の各種指標に顕著な季節性は無かった。さらにこの食物網構造の指標と成長速度との関係を明らかにするために、採集直前5日間の平均耳石輪紋幅を成長速度の指標とした。耳石輪紋幅は体長や水温の影響を受ける事から、これらの影響を除去した値を以後の解析に用いた。この標準化直近成長速度(以後、成長速度)と各食物網構造指標との関係より、成長速度はNR(δ15Nの範囲)とCD(CNプロットの中心からの平均距離)と負の相関関係にあることが分かった。NRは食物連鎖の長さ、CDは食物網構造の多様性を示すことから、食物連鎖長が短く、食物網構造の多様性が低い食物網において仔稚魚の成長が良くなる傾向が示唆された。また成長速度と環境中の動物プランクトン(カイアシ類と尾虫類)の密度には相関性は認められないが、多様性指数(H’)とは弱い負の相関関係にあるため、食物網構造や餌の多様性がイワシ類仔稚魚の成長に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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