研究課題/領域番号 |
17K07929
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
菅谷 琢磨 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (30426316)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 瀬戸内海での着底動態 / 稚エビの多型解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、クルマエビの主要漁場の一つである瀬戸内海においてDNAマーカーを用いたクルマエビ稚仔の血縁解析を行い、海域間の個体の移動を分析することによって、資源加入の現状を明らかにすることを目的としている。このため、平成29年度に引き続き、30年度も瀬戸内海の灘別及び時期別の稚エビの出現状況の調査と、天然稚エビの遺伝的変異性の分析及び高精度な血縁解析手法の開発に取り組んだ。 干潟での稚エビの調査については、平成29年度に調査地として設定した大分県、山口県、広島県、愛媛県、香川県及び徳島県の沿岸8ヵ所の干潟で実施し、全体で730尾を採集した。また、それらにおいては、前年度と同様に外海域に近いほど着底時期が早く、密度が高くなる傾向が見られた。 一方、平成29年度までに採取し、クルマエビと確認された683個体についてミトコンドリアDNAのD-Loop領域の672bpの塩基配列を解析した結果、全体で503個のDNA型が検出され、高い多様性が確認された。また、各地点間のDNA型の頻度について有意な違いは認められなかったが、地点間の遺伝的距離と地理的距離には有意な相関が認められ、豊後水道と他の海域との間で地理的に離れるほど遺伝的距離が大きくなる傾向が確認された。これらのことから、豊後水道、瀬戸内海及び紀伊水道では全体的に交流が盛んであるものの、地域によって交流の強さが異なる可能性があると考えられた。特に、親エビの主要漁場である豊後水道からの他海域への稚エビの供給については、より詳細な分析が必要と考えられた。このため、現在、それらの点に注目してマイクロサテライトDNAマーカーを用いたより精密な解析を実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、瀬戸内海の灘別及び時期別の稚エビの出現状況を毎年調査し、平成30年度以降は天然稚エビの遺伝的変異性の分析及び高精度な血縁解析手法の開発を実施することとしていた。稚エビの調査では、夏季(6~8月)及び秋季(9~11月)に、大分県沿岸(周防灘)、山口県沿岸(伊予灘)、愛媛県沿岸(燧灘)及び香川県沿岸(燧灘、播磨灘)に着底している稚エビの密度とサイズ組成を調査するとともに、血縁解析に用いるサンプルを各地点で年間100尾採集することを目標としていたが、結果としては、計画していた時期と海域に加え、計画外であった紀伊水道での調査も実施でき、目標以上となる730尾のサンプルが入手された。 また、天然稚エビの遺伝的変異性と血縁解析手法の開発については、ミトコンドリアDNAマーカーとマイクロサテライトDNAマーカーを用いて実施する計画となっていた。このうち、ミトコンドリアDNAマーカーについては計画通り遺伝的変異性の分析が実施でき、集団構造に関する示唆を得ることができた。マイクロサテライトDNAマーカーを用いた血縁解析手法については、前年度に一部のマーカーについてPCR条件の再検討が必要とされたことから遅れが出たものの、現在解析を実施中であり、計画通り今年度以内に結果が得られる見込みである。 これらのことから、平成30年度については全体として概ね計画通り順調に進展しているものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、瀬戸内海での着底稚エビについて、引き続き出現状況を調査するともに、マイクロサテライトDNAマーカーを用いた血縁解析を精力的に行い、ミトコンドリアDNA分析で示唆された集団構造についてさらに検証し、瀬戸内海における資源構造の概要を捉えることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に得たサンプルのミトコンドリアDNAのシークエンス分析費用とすることを予定していたが、11-12月に得られたサンプルについて前処理が間に合わず、シークエンス分析を完了することができなかった。翌年度は、新たに得られるサンプルと併せてDNA分析を行う計画である。
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