本研究ではクルマエビの主要漁場の一つである瀬戸内海で灘別と時期別の稚仔の出現状況を調査するとともに、DNAマーカーを用いた血縁解析によって海域間の個体の移動を分析し、資源加入の現状を明らかにすることを目的としている。 平成29~令和元年度に、豊後水道、周防灘、燧灘、播磨灘及び紀伊水道の7地点の干潟で6~9月に毎月稚仔の出現状況を調査した結果、豊後水道と紀伊水道では6~7月から出現し、他の地点では8月以降が主であった。1980年代には海域全体で稚仔の出現時期が6~7月であることが報告されており、特に瀬戸内海中央部で出現が遅くなっていると考えられた。 次に、平成29年度に得た418個体について、8つのマイクロサテライトDNAマーカーを用いて個体間の血縁度を算出し、7地点間の遺伝的関係を分析した結果、豊後水道と燧灘、及び周防灘と播磨灘の違いが有意であった。また、ミトコンドリアDNAのD-Loop領域672bpでのハプロタイプ情報も加え、解析ソフトのStructureを用いて集団構造を解析した結果、瀬戸内海東部の稚仔は由来する親集団が他の海域と異なる傾向があった。また、ミトコンドリアDNA分析において平成29年度(418個体)と平成30年度(555個体)の間に有意差は認められなかったため、2か年分をまとめて地点間の遺伝的関係を解析した結果、地点間の遺伝的距離(Fst)は非常に小さく(-0.005~0.009)、海域全体に大きな遺伝的交流があることが示された。しかし、豊後水道と燧灘の間の違いは有意であり、豊後水道と周防灘は互いに非常に類似していた。加えて、両年度とも豊後水道のハプロタイプ多様度が最も高く、統計的にも有意であった。 これらのことは、瀬戸内海に少なくとも2つの親集団があること、うち一つが豊後水道に存在することを示唆しており、資源管理ではその点に留意すべきと考えられる。
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