研究課題/領域番号 |
17K07930
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
工藤 秀明 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (40289575)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | サケ / 母川回帰 / 嗅覚 / 有機化合物 / 神経 / 行動 / 刷込 / 最初期遺伝子 |
研究実績の概要 |
遡河性サケ属魚類の母川回帰には,幼稚魚期の降河時に母川のニオイを記憶する「母川刷込」が重要である。そのニオイには母川水中のアミノ酸組成が関わることが報告されているが,他の有機化合物については不明である。本研究では,北海道南部八雲町の遊楽部川水系とそこに回帰・産卵するサケを研究対象とし,近接する母川と非母川から河川水を採集し,その中に含まれる有機化合物を網羅的に分析・比較することで新規の母川刷込ニオイ候補分子を探索し,そのニオイ分子に対するサケ回帰親魚の行動解析と実際にサケ親魚の嗅神経系のどの経路で情報伝達されるかを興奮神経細胞のイメージングにより示し,サケ母川刷込におけるニオイの想起に関わる神経回路と新たな母川刷込ニオイ分子を明らかにすることを目的としている。2年目の今年度は,春季と秋季に母川と非母川で採集した河川水サンプルを逆走カラム処理後,高分解能四重極飛行型液体クロマトグラフィー/質量分析計による有機化合物の網羅的分析を行った。その結果,春季と秋季の母川水に共通するピークが存在したが,既知分子は魚類のフェロモンとして知られる1分子のみが同定された。行動学的試験では,前年度同様に非母川に設置した生簀に母川から輸送したサケ雄親魚に対して,個体数・試験回数を増やして上流部から母川水を流した後の魚の反応を上部からビデオ撮影した。その結果,排精頻度が低い個体程,有意に特徴的な行動が認められた。一方,母川水と非母川水との反応の比較では,有意差は検出されなかったが,母川水に特徴的な行動を示すパラメーター平均値が高い傾向にあった。興奮神経細胞検出には,前年度の結果から蛍光デキストランによる手法を断念し,興奮神経細胞で発現する最初期遺伝子cfosに着目した。今年度は,定量PCRの検出系を確立し,組織剖出の際に必ず必要となる麻酔法と不動化法のcfos発現に与える影響を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
母川水に特徴的な有機化合物の網羅的分析では,類似した2河川を試験場所に選んだこともあり,スクリーニングされる分子種数が予想以上に少なく,由来が推定できる分子は1分子であったため。また,非母川にも存在し得るフェロモン様分子であったため。 行動分析では,産卵場まで遡上した雄親魚を用いたことから,極力,遡上後間もない個体を選抜して用いたが,ほぼ全てが産卵行動に一度以上は参加した個体と推定された。そのため,母川水への反応(興味)が低い結果となったため。 興奮神経細胞の検出には,昨年度の結果で,蛍光デキストランによる標識・検出は技術的には可能であるが使用する試薬の量とそのコストの関係から本研究助成では継続が困難であることが判明している。そのため,興奮神経細胞で発現する最初期遺伝子の1つcfos発現の検出に切り換えたため。
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今後の研究の推進方策 |
有機化合物の網羅的分析では,次年度も継続して同じ分子がスクリニーングされるか確認し,サンプリング法と検出法の精度の向上を試みる。 行動実験では、次年度は利用できる個体数は減少するが産卵場よりかなり下流域で採集された個体の使用に変更するつもりである。 興奮神経細胞の検出には,興奮神経細胞で発現する最初期遺伝子の1つcfos発現を着目しサケでのクローニングや定量的発現解析法および in situ ハイブリダイゼーション法による可視化を確立を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定した興奮神経細胞の検出に使う予定であった蛍光デキストランという試薬の使用を止め,最初期遺伝子の発現を検出に変更したため,物品費(消耗品)として使用するのが次年度に代わってしまったため。 最初期遺伝子cfosのクローニングと定量PCRの系の確立まで終えたので,実際に定量PCRにかかる試薬のランニングココストとin situ ハイブリダイゼーションによる可視化に用いる試薬購入に使用する予定である。
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