研究課題/領域番号 |
17K07932
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐伯 宏樹 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (90250505)
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研究分担者 |
都木 靖彰 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (10212002)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 魚肉タンパク質 / 糖修飾 / アルギン酸オリゴ糖 / 等電点電気泳動 / 抗炎症 / 抗酸化 / コラーゲン |
研究実績の概要 |
【経緯】メイラード反応を介してアルギン酸オリゴ糖(AO)修飾したシロザケ筋原線維たんぱく質(Mf-AO)は,強い抗炎症作用を示し,Mf-AOを酵素消化して等電点分画すると,その機能成分は酸性画分に集中する。本研究では,この性質を利用して,等電点分画(IEF)を 活用した抗炎症ペプチドの効率的調製」と作用メカニズムの理解を目指している。 しかし昨年度,IEFによって得た20種のMfペプチド(MfP)を各々AO修飾し,得られた各AO修飾ペプチド(MfP-AO)のTNT-α産生の抑制効果(マクロファージ利用)を調べたところ,酸性ペプチド画分だけでなくアルカリペプチド画分でもTNT-α産生の抑制効果が見られた。 そこで本年は,(1)Mf-AOとMfP-AOのIEFによる挙動の違いを詳細に検討し,仮説「Mf酸性ペプチド画分の限定的AO修飾は,優れた抗炎症ペプチドの産生に貢献するか?」の検証をおこなった。 また,(2)AO修飾コラーゲンに関しては,抗炎症機能との関連が議論されている抗酸化能を調査した。 【結果・考察】(1)AO修飾の条件を昨年度よりも最適化したところ,酸性ペプチド画分のTNF-α産生抑制能は塩基性画分よりも強いが,広範なMfP-AO画分において抗炎症作用が確認された。一方,高濃度のAOをIEFに供したところ,酸性画分に泳動濃縮されていた。そして,この濃縮部分は,IEF分画したMf-AO消化物における抗炎症画分とほぼ一致した。以上の結果から,IEFにおける抗炎症ペプチドの酸性領域への局在は,消化ペプチドに結合したAOの静電特性に起因する現象であると判断した。(2)AO修飾したコラーゲンの機能解析を進める上で,強い抗酸化性の付与が確認でき,の糖鎖導入法による新しい機能付与効果が示された。これについては,ペプチドへの糖鎖導入に活用したメイラード反応との関連が推定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の結果によって,主要な研究目的である「酸性ペプチドを主体とした抗炎症ペプチド調製の試み」に一定の結論が得られた。当初の作業仮説に基づく「より高機能の抗炎症魚肉タンパク質」の調製には貢献できなかったが,その理由を学術的に証明できた。また,IEFの活用によって,あらたな抗炎症ペプチド画分が得られることも確認できた。さらに,AO修飾したコラーゲンの機能解析を進める上で,強い抗酸化性の付与が確認できた。これらは,当初の研究計画では予想していなかった知見である。以上の学術的成果の獲得から,研究が(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)AO修飾がコラーゲンペプチドの抗酸化・抗炎症作用におよぼす影響を取りまとめる。(2)さらに,AO修飾ペプチドが,従来の核内因子(NF-kβ)に関わる炎症性サイトカインの他に,インフラマソームシグナル伝達の影響を受けるサイトカイン産生を抑制する傾向が得られつつある。これは糖修飾ペプチドの抗炎症メカニズムを理解するうえで全く新し知見となりうる。そこで研究を1年間延長して,これらの知見を集積する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス問題によって,2020年3月開催の水産学会春季大会が中止となった。ここでは,本研究成果の一部 を,シンポジウム(魚介類タンパク質・酵素の産業利用とさらなる理解に向けて)の演者として発表予定であった。学会の判断で本シンポジウムは開催・成立となったが,関係者によって次期学会での発展的シンポジウムの開催が検討されつつある。そこで,目的をより精緻に達成するため,事業期間を延長し,研究内容の充実と次期大会での成果発表をめざす。経費は学会参加費と,研究継続のための消耗品購入にあてる。
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