研究課題/領域番号 |
17K07939
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
杣本 智軌 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40403993)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 寄生原虫 / 免疫 / T細胞 / 魚類 / 鰓 / ギンブナ |
研究実績の概要 |
平成29年度は、(1)抗原として用いる寄生虫Ichthyophthirius multifiliisの分離・維持法の確立と(2)未感作のギンブナにおけるI. multifiliisに対する免疫応答の解析を実施した。 (1)I. multifiliisの分離・継代:白点病魚の体表からI. multifiliisのトロホントを採取し、ビーカー内で孵化させることに成功し、効率よくセロントを得る方法を確立した。I. multifiliisが存在する飼育水に継続してキンギョを投与することで最長で2週間 I. multifiliis を維持することができた。永続的に継代・維持し続けることはできなかったが、本研究で実施予定の実験で使用するのに十分な数のI. multifiliisを準備することができた。 (2)I. multifiliisに対する免疫応答:未感作ギンブナの鰓および腎臓由来の白血球は、in vitroでI. multifiliisを殺傷することを明らかにした。CD8陽性T細胞は、CD4陽性T細胞、CD4・CD8陰性細胞群と比較して、有意に高いI. multifiliisに対する細胞傷害活性を示した。また、CD8陽性T細胞のみが積極的にI. multifiliisと接触することが顕微鏡下で観察された。以上の結果は、未感作のCD8陽性T細胞がI. multifiliisを排除するための重要なエフェクター細胞であることを示唆している。魚類において、T細胞が寄生虫を直接排除するという報告例はなく、魚類の抗寄生虫防御機構における新機能を発見することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度の目的は、魚類の寄生虫に対する生体防御機構の研究モデルを構築することであった。先ず、実験対象とする寄生原虫I. multifiliisの維持、増殖法を確立することに成功し、本年度の実験を実施するのに十分な数のI. multifiliisを準備することができた。次に、トリパンブルー色素排除法によって、魚類白血球のI. multifiliisに対する傷害活性を測定することができた。これら確立した実験系により、ギンブナのCD8陽性細胞傷害T細胞が寄生原虫を直接傷害するという、魚類免疫機構における新知見を得ることができた。以上のように、当初の計画どおり実験系が構築できたうえで、さらに今後の研究方針を明確するような重要な研究成果が得られたため、平成29年度は当初の計画以上に研究が進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度において、CD8陽性T細胞が寄生原虫に対して強い傷害能を有することが明らかとなった。このため、本年度以降はCD8陽性T細胞に焦点を当て、その傷害メカニズムや寄生虫を排除するCD8陽性T細胞の特徴を調査する。CD8陽性T細胞がどのような因子を用いて寄生虫を排除しているのかを明らかにするため、傷害因子の候補であるセリンプロテアーゼの阻害剤によってその活性が消失するか、消失した場合はどのようなプロテアーゼなのかを遺伝子レベルで解析する。また、その傷害機構には、CD8陽性T細胞が寄生虫を捕まえる必要あるのか、あるいは傷害因子を分泌することで捕まえなくても傷害できるのかを明らかにするため、CD8陽性T細胞と寄生虫の接触を遮断したときの傷害活性を調査する。また、寄生虫を傷害するCD8陽性T細胞がαβT細胞なのかγδT細胞なのかを確かめるため、ギンブナTCRγ鎖あるいはδ鎖の遺伝子配列を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「研究実績の概要」と「現在までの進捗状況」の欄に記述したように、当初の計画よりも順調に進展しており、平成30年度は予定よりも多くの実験魚が必要となる。それに伴い、飼育設備の増設、寄生原虫の維持・継代に必要なインキュベーターなど、当初の計画よりもより多くの設備費がかかる予定であるため、平成29年度の一部の費用を繰り越した。
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