研究課題/領域番号 |
17K07945
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
篠村 知子 帝京大学, 理工学部, 教授 (80579235)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 低温ストレス / 強光ストレス / 微細藻類 / カロテノイド / ユーグレナ / P450 |
研究実績の概要 |
本研究は、ユーグレナにおけるカロテノイド合成系の酵素遺伝子群の単離と機能解析を行い、それらの遺伝子やカロテノイド分子種と強光ストレス耐性との関連を明らかにすることを目指している。 平成30年度には、主として前年度までにクローニングしてその機能を確認したフィトエンからリコペンまでを合成する経路に関与するフィトエン不飽和化酵素遺伝子(crtP1, crtP2)およびζ-カロテン不飽和化酵素遺伝子(crtQ)の発現が、強光照射や温度の影響をどのように受けるかを確認する実験を行った。ユーグレナは20℃を低温と感知し、この温度では増殖を停止することがわかっている。20℃強光(240 μmol photon/㎡s)で培養した場合には、フィトエン合成酵素(crtB)およびcrtP1と crtP2の転写レベルは統計学的に有意に上昇した。しかし、20℃強光で培養した場合には、20℃中程度の光強度(55 μmol photon/㎡s)の場合に比べて、細胞増殖や細胞内のクロロフィル含量や全カロテノイド含量は著しく減少した。 そこで、温度や光強度を変化させた場合、カロテノイドの主要な分子種群のモル比が細胞内でどのように変化するかを比較した。その結果、強光でも中程度の光強度でも、20℃で培養した場合にはβ-カロテン、ネオキサンチンおよびジアジノキサンチンの細胞内含比率は、25℃の場合に比べて半分以下に減少した。しかし、ジアトキサンチンの含有比率は、20℃強光の場合も20℃中程度の光強度の場合も、25℃中程度の光強度に比べてさほどの低下を示さなかった。これらの結果から、ユーグレナの主要カロテノイド分子種のうち、ジアトキサンチンが低温や強光のストレス耐性に最も重要であることが示唆された(研究業績 論文Kato et al., 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度には、本研究課題の申請時に設定したの2つのサブテーマのうち、「テーマ1:カロテノイド合成酵素の遺伝子発現の調節による強光ストレス耐性の解析」において当初の計画以上の成果を得た。ユーグレナから比較的短期間にカロテノイド合成系酵素遺伝子群のうちとくに合成系上流域であるフィトエンからリコペンまでを合成する経路の酵素遺伝子群を新たにクローニングし機能解析が進んだことは、研究実績の概要に述べたとおりである。 さらに、当初予想していなかった研究加速要因として、神戸大学の今石教授の研究チームがシトクロムP450酵素ファミリーをユーグレナから探索してCYP97の相同遺伝子配列を見出し、これらの機能解析を我々との共同研究により実施することになったことがあげられる。その結果、ユーグレナからクローニングされたEgCYP97H1およびEgCYP97F2のうち、少なくともEgCYP97H1に由来する酵素はβ-カロテンモノ水酸化酵素であることが分かった。ユーグレナのカロテノイド合成系遺伝子の転写調節を調べた結果、25℃強光照射下では25℃中程度の光強度に比べてカロテノイドが有意に蓄積するにもかかわらず、EgCYP97H1およびEgCYP97F2の転写レベルはほとんど変化しなかった。これらの結果およびその他のデータから、ユーグレナのカロテノイド合成は、転写調節ではなく転写後調節によって制御されることが強く示唆された(研究業績 論文Tamaki et al., 2019)。 これまでの進捗により、カロテノイド合成系遺伝子群のクローニングと機能解析が格段に進捗し、さらに、カロテノイド合成の制御機構や強光ストレスに強く作用するカロテノイド分子種が明らかになりつつあり、今後の研究推進への道筋がより明確になったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の申請時に設定したの2つのサブテーマのうち、「テーマ1:カロテノイド合成酵素の遺伝子発現の調節による強光ストレス耐性の解析」において大きな進捗があり、さらに、クローニングしたカロテノイド合成系遺伝子のノックダウン系統をRNAiにより作出してその表現型を解析する実験において、強光下における傷害忌避応答としての光走性運動にカロテノイドが重要な機能を果たす可能性が示唆される予備実験結果を得ている(研究業績 国際会議Kato et al., 2019)。さらに、ユーグレナのカロテノイド合成が、青色光照射により強光ストレスが緩和される可能性を示唆する予備実験結果も得られている(研究業績 国内学会発表Tanno et al., 2019)。 申請時に設定したのもう一つのサブテーマである「テーマ2:ジャスモン酸シグナルおよび光環境情報シグナルの強光ストレス耐性の関与の解析」に関しては、平成29年度から2年間かけて、ジャスモン酸合成系遺伝子の単離を試み、シロイヌナズナの12-オキソ-フィトジエン酸(OPDA、ジャスモン酸前駆体)還元酵素AtOPR3のアミノ酸配列と相同性のある配列を6個見出し、そのうちすくなくとも2種類の配列由来のタンパク質がOPDAからOPC-8:0への合成を触媒する酵素活性を持つことを確認した。現在、これらの遺伝子のノックダウン系統を作成し、その表現型を解析中であるが、いまのところ顕著な表現型は観察されていない。 以上の経過を総合し、本研究課題の最終年度にあたる平成31年度(令和元年度)は、テーマ1にリソースを集約することで限られた年限で成果を最大化できると判断し、強光ストレス耐性とカロテノイド合成の関係を解明することに集中する。
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