2020年度 通常のシシトウの他,それに比べて身が数倍の大きさになる万願寺シシトウを用いて腸管モデル実験を行った。その結果,小さいシシトウには吸収阻害効果が認められたものの,万願寺シシトウには全く認められなかった。万願寺シシトウは辛味が少ないことが特徴であるため,辛味成分が吸収阻害効果に影響している可能性が考えられた。次にゴボウ汁の分子量1万以下の画分をゲルろ過したところ,アミノ酸に相当する部分に大きな吸収ピークが得られた。そこでアミノ酸分析を行ったところ,アルギニンが大部分であった。そこで,アルギニンを用いて腸管モデル実験を行ったが,アルギニンには吸収阻害効果は見られなかった。腸管およびCaco-2細胞によるモデル実験において,比較的高い吸収阻害効果を示したシシトウを餌に混入させ,グッピーに給餌しながらメチル水銀の蓄積を評価した。混入率は0,1,5%とし,メチル水銀濃度は1ppmとした。肝臓とその他にわけて水銀濃度を測定したが,5週間飼育後においても有意な水銀濃度の違いは認められなかった。肝臓の組織観察も行ったが,シシトウ混入率の違いによる肝臓の構造の違いは認められなかった。
研究期間全体を通じて あくまでもモデル実験のレベルではあるが,様々な野菜に分子量や電気的性質の異なる多種類の水銀吸収阻害効果をもつ物質が存在する可能性が認められた。最終的に飼育実験において有効性が認められなかった点が残念である。しかしながら,物質を単離したのち,餌への混入率を上げることができれば魚体の水銀レベルを低減させることが大いに期待される。物質の単離のための評価系については様々な改善点が浮かび上がってきており,今後さらに精度を上げて研究を進めていくための土台ができたこともまた本研究の大きな成果である。
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