研究課題/領域番号 |
17K07950
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
矢田 崇 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, グループ長 (80372043)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水産学 / 回遊 / 行動 |
研究実績の概要 |
“ホンマス”は日光中禅寺湖に約100年前に移植された、サクラマスの地域個体群である。形態的には体色の銀白色化のような銀毛(スモルト化)の特徴を示すが、海水への適応能力は調べられていなかった。本研究はホンマスの海水適応能力を、他の陸封または非降海性のサケ科魚類と比較しながら明らかにすることを目指した。スモルト化の特徴として血中濃度が上昇することが知られている甲状腺ホルモンについて調べると、春に体色が銀白色化したホンマスのスモルトでは、体色が変わらずに斑紋が残っているパーよりも、有意に高い血中甲状腺ホルモン濃度を示した。過去のサケ銀毛化の研究に従い、ホンマスの海水適応能力を淡水から海水への移動実験と、血漿浸透圧とナトリウム濃度の測定によって調べた。移動3日後、海水に移したパーの血漿浸透圧とナトリウム濃度は、淡水中のものよりも有意に高かった。一方海水に移したスモルトでは、淡水中のものよりも血漿浸透圧は有意に高かったが、ナトリウム濃度には有意な差は見られなかった。鰓のナトリウム-カリウムATPase(NKA)活性は、スモルトでは海水移行後に上昇したが、パーでは変化は見られなかった。さらに海水に移行したスモルトでは、淡水タイプのNKA遺伝子のmRNA量は減少していた一方、海水タイプのNKAが上昇していた。本研究の結果は、海から切り離されて世代を経ているにもかかわらず、ホンマスのスモルトが海水適応能力を発達させることを示していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長期海水馴致には濾材の検討に十分な予備実験が必要なため、今年度は小型水槽による試行に留め、躍層水槽での行動実験を前倒しして実施する。
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今後の研究の推進方策 |
スモルト化と海水適応に関連したホルモンの分泌状態が異なる条件下で、受容体と免疫機能の反応性について解析し、海水適応と免疫のトレードオフの実態把握を目指す。また塩分躍層水槽を用いた自発的な移行実験を実施し、海水への適応状況を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2台購入を予定していた低温恒温水循環装置が、水槽システム全体を小型化することで、1台で実施可能となった。外国旅費での出張先がヨーロッパから台湾に変更となり、交通費を軽減できた。賃金を支払う必要がなくなった。 (使用計画)外国出張が立案時より高くなる可能性があるため充当する。精度の高いデータ取得を目指して解析回数を増やす。
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