研究課題/領域番号 |
17K07952
|
研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
尾崎 雄一 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 増養殖研究所, 主任研究員 (10734030)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 精子形成 / ニホンウナギ / 濾胞刺激ホルモン / 黄体形成ホルモン / 輸精管 / ステロイドホルモン |
研究実績の概要 |
組換えニホンウナギ濾胞刺激ホルモン(reFsh)および黄体形成ホルモン(reLh)を週1回投与することにより雄ウナギを催熟し、適時精巣のサンプリングを行った。各特異抗体を用いた精巣の免疫組織化学的観察の結果、reFsh投与個体では投与開始4週目まで精母細胞が観察されなかったのに対し、reLh投与個体では2週目で精母細胞が出現した個体が認められ、reFsh投与に比べreLh投与により催熟した個体では精子形成が速く進行することが明らかになった。さらに、各種生殖関連遺伝子の精巣での発現変化をリアルタイムPCRにより調べた結果、ステロイド代謝酵素の一つである11β-水酸化酵素の発現が、雄性ホルモンである11-ケトテストステロン(11-KT)の血中量と同様に、reFsh投与個体では投与開始から8週目まで徐々に増加したのに対し、reLh投与個体では1週目で急激に増加した。また、reFsh投与個体では11β-水酸基脱水素酵素タイプ2(hsd11b2)の発現に顕著な変化が認められなかったのに対し、reLh投与個体では1週目に著しく増加した。これらの結果から、11β-水酸化酵素およびhsd11b2が11-KT合成の律速酵素であること、並びにその11-KT合成量が精子形成の進行速度に関与していることが示唆された。 加えて、reFshおよびreLh投与開始16週後のウナギから輸精管を摘出し24時間培養した後、培養液中のステロイドホルモン量を測定した。どちらのホルモン投与で催熟した個体から得た輸精管においても、ステロイドホルモンの基質であるプレグネノロンを添加した群では未添加群に比べ、DHP産生量が高値を示した。さらにプレグネノロン添加群ではreFshおよびreLh添加により、DHP産生量が助長される傾向が認められた。以上の結果、ニホンウナギ輸精管がDHP産生能を有することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに各発達段階のニホンウナギ生殖細胞のマーカーとして利用可能な特異抗体を準備しており、まずそれら抗体を用いてreFshおよびreLhの雄ウナギ精子形成への作用機構の詳細、特にその差異を解明するために実験を行った。その結果、reFshおよびreLh投与により催熟した個体では、reLh投与個体の方が早くに減数分裂を開始することを明らかにしている。加えて各種生殖関連遺伝子の精巣での発現変化を調べ、reFshおよびreLh投与が特定のステロイド代謝酵素(11β-水酸化酵素およびhsd11b2)の発現に及ぼす作用の違いから、雄性ホルモンである11-KT産生に対して異なる作用を有することを明らかにし、それにより精子形成の進行速度に差が生じることを示唆している。以上のことから、reFshおよびreLhの雄ウナギ精子形成への作用機構の一部を解明し、さらにその作用機構の明確な差異を示すことに成功しており、当初の目的はほぼ達成されたと考えられる。 加えて、reFshおよびreLh投与により催熟した個体の輸精管を用いて、DHP産生というニホンウナギ輸精管の新たな機能を明らかにすることに成功しており、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに、雄ニホンウナギをreFshおよびreLh投与により催熟した結果、採精量や得られた精子の運動能において、reLh投与群の方が著しく高値を示したことから、輸精管の発達や精漿成分に及ぼすreFshおよびreLh投与の影響を調べる。reFshおよびreLh投与により催熟したニホンウナギから得られた輸精管の形態の差異を、組織学的に詳細に解析する。加えて、reLh投与個体から得た精漿を用いて、reFsh投与個体から得た運動活性の低い精子の活性化を試みる。併せて、reLh投与個体から得た精漿中の成分のうち、精子の運動活性に係わる因子の特定を試みる。 魚類精巣において、セルトリ細胞は生殖細胞を取り囲みシストを形成し生殖細胞の発達に重要な役割を果たすと考えられているが、その詳細は不明である。これまで予備実験で、ウナギ精巣から、生殖細胞、セルトリ細胞、ステロイドホルモン産生細胞と考えられているライディッヒ細胞を分離する手法を開発中である。その分離法を確立し、分離したセルトリ細胞の培養を試みる。その分離したセルトリ細胞にreFshおよびreLhを添加し培養した後、各種生殖関遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより調べ、セルトリ細胞に及ぼすreFshおよびreLhの作用機構およびその差異を明らかにする。
|