寄生が顕在化しないタイプ(不顕性感染型)の粘液胞子虫であるナナホシクドア(Kudoa septempunctata)は、ヒラメの生食によって一過性の下痢や嘔吐を呈する食中毒を起こすため、公衆衛生上の問題となっている。一方、寄生が顕在化するタイプ(顕性感染型)のK.iwataiは、ナナホシクドアと同様の症状を起こすことが示唆されている。本研究では、顕性感染型粘液胞子虫について、下痢原性およびその発症機序を解析し、顕性感染型粘液胞子虫の食中毒リスクを明らかにすることを目的とした。これまでの結果より、K.iwataiは下痢発症モデル動物の乳のみマウスに対し、ナナホシクドアと同様の腸管内液体貯留活性を示すことを明らかにした。しかし、K.iwataiが本活性を示すにはナナホシクドアよりも約10倍多い胞子数が必要との結果を得ていた。今年度は、昨年度に検討した、胞子の生存性を確認するための蛍光染色法を応用し、K.iwataiが液体貯留活性を示すための胞子数の閾値をより正確に決定することを目的とした。入手したキビレからK.iwataiのシストを回収し、シストから胞子を抽出してパーコールを用いて精製した。胞子の生存性を蛍光染色法で確認した後、乳のみマウスに投与し、腸管内液体貯留(FA)値を測定した。その結果、K.iwataiが腸管内液体貯留活性を示す胞子数の閾値はナナホシクドアの4-6倍程度と推測された。また、K.iwatai胞子の活性を数週間保つためのシスト保存法の検討も行った。 本研究により、顕性感染型粘液胞子虫であるK.iwataiは、ナナホシクドアよりも多くの胞子数を必要とするが、同様の腸管病原性を示し、極糸によって腸上皮細胞に障害を及ぼして腸内に液体を貯留させる、即ち、下痢を発症させると考えられた。K.iwatai寄生魚の喫食は、食中毒の発生リスクがあることが明らかとなった。
|