研究課題/領域番号 |
17K07959
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
安藤 益夫 宇都宮大学, 農学部, 教授 (70373230)
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研究分担者 |
角田 毅 山形大学, 農学部, 教授 (60355261)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 集落営農 / コミュニティー / 地域社会 / 高齢化 |
研究実績の概要 |
昨年度の現地調査を通じて、集落営農活動を通じたコミュニティーの再建は、集落社会が存亡の危機に直面している地域ほど、両者の関連性が深いことが明らかになった。そこで本年度は、高齢・過疎化の著しい広島・島根両県の集落営農法人に重点を置いて現地調査を実施した。 広島県東広島市の集落営農法人の多くは、利用権設定による経営受託でさえも、畦畔草刈りや水管理等の人力作業を地権者に再委託し、できる限り構成農家が継続的に農業に携わる仕組みを作っていることである。法人の労働力不足という厳しい実情もあるが、完全な離農による集落からの遊離・無関心を防止するためでもある。したがって、法人は水稲機械作業と水稲以外の園芸作物生産が主要活動となるが、その運営方式には大きく二つのタイプが認められる。一つはそれらの活動を年齢や性別に応じた分・協業体制を組み、できる限り多くの集落住民を法人活動に参加させる方式、二つには集落住民のみに拘泥せずに集落外からも若い農業労働力を雇用・確保して少数精鋭で運営する方式。なお、コミュニティー再建という観点からすれば、後者のほうが効果が高いと推測された。 島根県では、集落内の青壮年齢人口そのものが広島県に比べてより一層減少・枯渇しているために、住民自らが主体的に営農活動を展開することが難しくなりつつある。そのため、集落外からの新規就農希望者を雇用するケースが増加し、さらにはそうした外部からの新規参入者が営農活動のみならず生活支援や地域資源管理までも担う「地域貢献型集落営農」が頻出している。このことは、本研究のテーマである「集落営農活動によるコミュニティー再建」は、人口規模・年齢構成・兼業状況などの面からみて一定の条件を具備する地域に限定せざるを得ないことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年7月6日から7日にかけて西日本の広い範囲を襲った記録的な集中豪雨によって、 広島県、岡山県をはじめ各地で土砂災害や河川の氾濫が相次ぎ、多数の死者・行方不明者が出た。本研究の調査地である東広島市においても、土砂崩れ、畦畔法面の崩壊、泥水の流入による用排水路の破壊が各地で発生した。さらにはJR山陽本線や周辺の幹線道路が各所で寸断され、復旧までに数か月を要した。そのため、東広島市での現地調査は10月以降に延期せざるを得なかった。と同時に、東広島市以外の広島県内で展開する集落営農法人調査も滞ってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的(集落営農活動を通じたコミュニティーの再建)を効率的に達成するには、地域社会の持続性が危ぶまれ、かつ農業の中核的担い手もいない地域での集落営農に焦点を当てるのが望ましいことが明らかになった。なぜなら、そうした地域での集落営農は農業生産にととまらず、地域資源管理や生活支援にまで活動範囲を広げ、地域社会と一心同体的な活動を通じて地域社会の存続・再建の役割を担っているからである。 そのため、本年度より広島・島根県を中心とする中国地域に重点を置いた現地調査を実施してきたところである。しかしながら、平成30年7月に発生した西日本の広い範囲にわたる豪雨被害の影響で、現地調査ができない期間が数か月にも及び、所期の調査スケジュールを十分に達成することができなかった。したがって、次年度以降では「研究実績の概要」で述べた運営方式の違いを念頭におきながら、東広島市内の集落営農法人の現地調査をさらに深めるとともに、東広島市以外の広島県における集落営農法人の活動の特徴と地域社会との関係を調査する。さらには、中国地域のもう一つの高齢・過疎地域である山口県にまで対象を拡大して調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年7月に中国地方の広い範囲にわたって発生した集中豪雨(気象庁は「平成30年7月豪雨」と命名)の影響で、現地調査ができない期間が数か月にも及んだ。特に主要現地調査対象地である東広島市では、交通網の寸断や水田畦畔や農道の崩落等の被害を蒙り、現地住民は復旧対応に追われる日々が数か月に及んだ。そのため、当初予定して広島県を中心とした中国地方の集落営農調査が大幅に遅延してしまった。 次年度以降においては、「研究実績の概要」で述べた運営方式の違いを念頭に置きながら、東広島市内の集落営農法人の現地調査をさらに深めるとともに、東広島市以外の広島県における集落営農法人の活動の特徴と地域社会との関係を調査する。また、その知見をもとに、広島県同様に高齢・過疎化の進んだ山口県・島根県にまで対象を拡大して調査を実施する。さらには、タイを始めとするインドシナ諸国において展開しているコミュニティーベースの営農展開にも着目し、営農と地域社会との関係性の違いを比較検討することによって、日本における集落営農の特質を明らかにする。
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