コロナ禍のもとでの日本の酪農乳業や生乳市場の変化を、指定生乳生産者団体(指定団体)や全農などの酪農生産者組織の対応に焦点を当てて整理し、深刻な乳製品過剰に陥った現状を打開する方策が行き詰まり状態にあることを明らかにした。 酪農生産者組織の生乳数量調整対策は農協法改正、畜安法改正によって実施困難になっている。生乳の出荷制限を要請すれば、指定団体の生乳共販に需給調整リスクを押しつける二股出荷を惹起させかねないからである。 2017年度から19年度にかけて実施したドイツ、スペイン、フランスの酪農生産者組織活動や政府・乳業の組織化支援に関する調査で明らかになったように、酪農経営が複数の乳業メーカーに生乳を出荷することは一般的ではなく、むしろ垂直的な取引関係における契約条件の改善、そのための生産者の組織課支援が進められている。酪農経営が生乳を二股出荷する場合、どちらかの出荷先への出荷が優遇されるなど、取引の信頼関係が損なわれる。乳業は専属的な出荷を酪農経営に求めることが多く、逆に既存の出荷先との取引関係を揺るがすために二股出荷を持ちかける。フランスでは日本の指定団体のように複数の乳業メーカーへの出荷を乳業メーカーとの交渉によって実現しつつあり、乳業による酪農経営の垂直的な統合を牽制する動きとして注目されている。 こうした欧州の動向をふまえると、畜安法改正によって酪農経営の二股出荷を促し、指定団体が複数の乳業メーカーに対して生乳を販売する交渉力を抑制しようとする酪農政策が重大な誤りであり、酪農協などを水平的に統合して生乳を複数の乳業メーカーに販売する指定団体の役割が重要であることが明らかになった。コロナ禍の影響で生乳過剰に直面している状況で、畜安法改正を改めて見直す必要があることが示唆される。
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