本研究は,1990年代から最新年までのベトナム農家のミクロ(パネル)データに基づき,農外労働供給(賃金労働・非農業自営業・出稼ぎ),食料供給,栄養摂取に関する理論・実証分析の方法を改善しながら,農家の農外労働供給行動,それが食料供給と栄養摂取に与える効果,食料供給と栄養摂取の相互依存関係を考察することを目的とする。また,市場の発展が進むベトナムにおいて,貧しい農家が所得と栄養状態を十分改善できない原因をさぐり,その改善に必要な政策を見出すことも目的としている。本年度は,ベトナム家計生活水準調査とベトナム資源アクセス家計調査の最新データに基づき,上述の行動と関係に関する実証分析を海外研究者との共同研究の形で進める予定であった。昨年度に続く新型コロナウイルス感染症の流行のため,海外研究者との共同研究が円滑に進まなかったが,課題に関連して二つの成果を残した。まず,2008年~2016年のベトナム資源アクセス家計調査に基づき,非農業部門への就業が稲作の技術採用(新しい品種,機械,化学肥料,農薬の採用)に与える影響を分析し,他の技術採用には有意な影響は見られないが,新しい品種の採用について有意な正の効果があることを実証した。また,農外労働供給の実証法を検討する中で,農業部門と非農業部門の報酬差が部門間の労働移動に与える影響を集計データに基づいて分析する方法を再検討した。この影響に関する近年の研究は,報酬差に関する特定の閾値での非連続性の重要性を主張するが,集計データに基づく分析ではこの非連続性の理論的重要性は低いこと,日本と米国のデータからこの点が実証されることを示した。
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