本研究の課題は、国による米の生産数量目標配分の廃止後、稲単作地帯における水田利用の高度化の条件を明らかにすることである。 今年度は、2010年代半ば以降、農地供給が一層増大する中で経営耕地面積の拡大を果たした経営体の分析から、通年雇用の導入が水田利用高度化の契機となっていることを明らかにした。さらにCOVID19の感染拡大による物流停滞やウクライナ戦争を受け、小麦や大豆など土地利用型作物の国内生産の機運が高まっていることは今後の水田利用高度化の促進要因となりうる。 研究期間を通じて明らかにしたことをまとめると、第一に、国による主食用米の生産調整が廃止による経営状況の変化として、離農による農地供給の増大に伴う借地主体のファームサイズの拡大と、それを活かしたビジネスサイズの拡大が進展した。ただし、米および米以外の作物の間で相互に単収を高めるような水田利用の秩序は形成されておらず、むしろ生産調整廃止後における米価の堅調な推移を受けて、農地利用の面では大豆等の畑作物の作付面積を減らし、非主食用米の作付を増やす行動もみられた。こうしたことから、国による米の生産調整が廃止になったものの、大規模水田作経営においては土地利用の高度化は必ずしも進展していない。 とはいえ第二に、中核的水田地帯の周縁部など一部地域において、水田で大豆-小麦-ソバの2年3作を行う、いわゆる水田畑輪作の導入が見られるなど、水田利用高度化の萌芽的な動きも観察された。そのような経営事例の分析から抽出された水田利用高度化の契機の一つは集積農地の集約である。大規模経営同士の農地交換等によって集積した経営耕地を団地化することにより、水稲作以外の機械化可能な土地利用型畑作物が導入可能となる。もう一つは通年雇用の導入である。年間を通じて人件費を捻出する必要性が米作以外の部門導入と水田利用の高度化を促すように作用するためである。
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