研究課題/領域番号 |
17K07973
|
研究機関 | 共栄大学 |
研究代表者 |
中村 哲也 共栄大学, 国際経営学部, 教授 (80364876)
|
研究分担者 |
矢野 佑樹 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 講師 (40618485)
丸山 敦史 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (90292672)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ロシア / 農産物輸出 / EAC認証 / GLOBALG.A.P. / JGAP / 放射性物質 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、ロシアを事例とし、輸入農産物の国際認証制度と信頼性に関して分析を行った。まず、ロシア人の8割が食の安全性に、9割が日本食に関心を持ち、8割以上が日本料理店を利用していた。ロシア人の6割が醤油を、3割の者がコメを購入していた。ロシア人の食の安全性を脅かすのは食中毒が最も多く、残留農薬や食品添加物、放射性物質が多かった。ロシア人はEAC認証やGGAP よりJGAPを信頼した。GGAPの認証を受けた中国産よりJGAP認証を受けた日本産は6倍以上も信頼性が高かった。他方、コメに関して高価なイギリス産よりあきたこまちを購入する者は8倍も多く、醤油に関して安価な中国産より高価な埼玉産を購入した。 更に、輸入農産物の衛生・残留農薬・放射性物質・異物混入の国際比較をした結果、衛生、残留農薬、異物混入についてはロシア、日本、EU、中国産の順であるが、日本産の放射性物質の信頼性は高くない。 最後に、国際認証を受けた農産物を信頼する階層はどの階層なのか、統計的な差異を推計した結果、GGAPを取得した農産物については、高所得者が信頼した。またJGAPを取得した農産物については、男性や年齢が高い者、子供がいる者、高所得者が信頼したが、沿ヴォルガ連邦管区の人々は、JGAPを取得した日本の農産物を信頼していなかった。更に、GGAP認証を受けた中国産を信頼する者は、年齢が低い高所得者であった。他方、JGAP認証を受けた日本産を信頼する者は高所得者であった。加えて、GGAP認証を受けた中国産は、女性や年齢が若い者、シベリア連邦管区の者が信頼した。他方、国際認証を受けなかった日本産は沿ヴォルガ連邦管区の者が信頼していなかった。 以上、ロシアへ日本産を輸出する際、国際認証を取得していない場合は汚染地域が集中する都市の住民には信頼されないが、JGAP認証を受けた場合、ロシア人は日本産を信頼した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は「東日本大震災後の日本産果実輸出の現況と輸出拡大へ向けての提言」を『農耕と園芸2018年5月号』(誠文堂新光社)において公開した。その著において①どんな産地の果実も輸出先国ではトップブランドになる可能性を秘めていること、②高価であっても品質が良い『本物の日本食』を売ること等を提案した。 また2018年日本国際地域開発学会春季大会(2018年6月30日名古屋大学農学)において、『ロシアにおける輸入農産物の国際認証と信頼性に関する分析-日本産輸出を考慮して-』というタイトルで個別報告を行った。ロシアへ日本産を輸出する際、国際認証を取得していない場合は、汚染地域が集中する都市の住民には信頼されなかったが、JGAP認証を受けた場合、ロシア人は日本産を信頼することを明らかにした。 更に園芸学会東北支部平成30年度大会(平成30年8月21日)において「東北の園芸作物の輸出拡大に向けて」というタイトルでシンポジウム報告を行った。①原発事故によって福島周辺の園芸作物の取引価格は下落しているが、日本の園芸作物輸出は震災後、着実に拡大していること、②福島産は世界一放射性物質の検査が進んでおり、安全性が高いことをアピールできれば、輸出拡大の商機は必ずつかめること等を報告した。 加えて農業・食品産業技術総合研究機構が主催する果樹茶業研究会「寒冷地果樹研究会」において「リンゴ輸出の現状と新たな潮流に向けた提案」というタイトルでシンポジウム報告を行った。①日本産リンゴの輸出は台湾一辺倒の輸出から香港やアジアの輸出先国の輸出へとシフトしつつあること、②高所得国では一般家庭用にシフトも進むが、ASEAN諸国では今なお贈答用需要が大きいこと、③日本の特徴ある品種をいかに海外へ売り込むかが輸出拡大のカギとなること等を明らかにした。現在これらの原稿を書籍化し、2020年度中に出版する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2016年5月のソチでの首脳会談の場で、安倍総理からプーチン大統領に『ロシアの生活環境大国、産業・経済の革新のための協力プラン』が初めて披露された。この首脳会談では、日露経済交流の促進に向け、8つの項目からなる協力プランが提示されてから、日露でプロジェクトが進められている。日露経済協力プランには、①健康寿命の伸長、②快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り、③中小企業交流・協力の抜本的拡大、④エネルギー、⑤ロシアの産業多様化・生産性向上、⑥極東の産業振興・輸出基地化、⑦先端技術協力、⑧人的交流の抜本的拡大、等が提示されている。そこで、極東連邦管区を事例として、市民はどの経済協力プランに期待するのか考察したうえで、エネルギー及び食品企業交流・協力プランを中心として、消費者評価を統計的に分析する。 また、日露経済協力プランのうち、中小企業交流・協力の抜本的拡大があげられている。特にわが国はロシアにおける日本食の展開を図ることを目標にしている。日本食レストランは中小企業が多いが、モスクワには「Seiji」が、ウラジオストクには「炎」が開店しているが、わが国は質の高い日本食レストランの出店を後押ししている。他方、真冬のロシアの食卓に、新鮮な野菜が並ぶことは難しい。そのため、中国産の野菜が販売されることが多いのだが、残留農薬の問題があり、ロシア人が安心して購入するまでには至っていない。日本の植物工場は内部環境をコントロールした閉鎖的・半閉鎖的な空間で植物を計画的に生産できるため、真冬の食卓でも、新鮮で安心できる国産野菜を栽培・提供できる植物工場の輸出が期待されている。また、ロシア向けにはサンマが輸出されているが、台湾産と競合するため、放射性物質の検査体制を強化する必要がある。そこで今年度は日露経済協力プランと合わせ、日本食レストランや植物工場のビジネス・チャンスに関する調査を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ロシア向け調査をSurveyMonkey(ネットリサーチ会社)に依頼した際、見積金額が少し超過したため、次年度に回せば予算内に収まることが分かったため、次年度に繰り越した。
|