研究課題/領域番号 |
17K07987
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
中川 光弘 茨城大学, 農学部, 教授 (30302334)
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研究分担者 |
矢口 芳生 福知山公立大学, 地域経営学部, 教授 (70302908)
高橋 京子 大阪大学, 総合学術博物館, 准教授 (00140400)
内田 晋 茨城大学, 農学部, 准教授 (30631014)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アグリセラピー / 共生福祉社会 / 農福連携 / 食農業教育 / グリーンケア |
研究実績の概要 |
アグリセラピーを契機とした共生福祉社会の展開可能性を検証するために、香川県のS社会福祉法人と共同研究を開始した。S社会福祉法人では、発達障害や引きこもりの児童を集めて心理治療と学校教育を行っている。寄宿舎生活の中では農業実践が重視され、食養生や運動療法も実施されている。今年度の調査では、自然や農業は児童を癒し成長させる力を持っていることを確認した。 アグリセラピーの効果を実証するために、その効果を評価する心理テストの有効性を検討した。GHQ60、TEG、MMPIの心理テストを検討した結果、小中学生を対象とする場合はMMPIはテスト実施の負担が大きいこと、GHQ60やTEGは実施負担が少なく効果を有効に評価できることを確認した。次年度はGHQ60を使ってアグリセラピーの効果を計測する予定である。 アグリセラピーを構成する食養生に関しては、『国民健康栄養調査』と『人口動態調査』を使って、食生活と生活習慣病の統計学的分析を行った。食物摂取量と悪性新生物年齢調整死亡率との相関分析によると、悪性新生物死亡率を高める傾向のある食物として魚介加工品、うどん・中華麺、ジャガイモ・加工品などがあり、低下させる食物として牛肉、えび・かに類、大豆(全粒)・加工品などがあることが確認された。食養生の実践は生活習慣病を予防する効果があることが示唆された。 アグリセラピーを構成する農業実践に関しては、農業を療法として活用するためには、年間を通じて毎日農作業を実践できるよう農業体系を設計する必要がある。特に冬季の農作業機会をどの様に提供するかが課題である。冬季にも生育を続けるローズマリーのような多年生のハーブ類が農業療法に有効でることが確認された。 アグリセラピーを契機とした共生福祉社会を展開させるための制度設計課題として、不登校や引きこもり児童に対する支援制度の整備が遅れていることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アグリセラピーを契機とした共生福祉社会の展開可能性を検証するための共同研究施設としてS社会福祉法人を選定し、実証研究を開始した。このS社会福祉法人で3回現地調査を行い、農業実践による自然や生命との身体的交流体験が精神不適応児童の治癒や成長に有効であることを確認した。 アグリセラピーの効果を評価するために、GHQ60、TEG、MMPI等の心理テストの有効性を検討し、小中学生への心理テスト実施の負担が軽いGHQ60を使った効果評価を次年度から実施することになった。 アグリセラピーを構成する食養生に関しては、食生活と生活習慣病との相関性分析を行い、食養生により生活習慣病を予防できることを確認した。悪性新生物に関して、それに影響を及ぼす可能性のある食物を統計学的に特定化した。この統計学的疫学研究を次年度はさらに深める予定である。 アグリセラピーを構成する農業実践に関しては、一年間を通じて農業実践の機会を提供できる農業体系を設計することが課題であることを確認した。具体的にどの様な作目を選定すればいいのか、またどの様な農作業が治癒効果を高めるのかの研究をさらに次年度に深める予定である。 アグリセラピーを契機とした共生福祉社会の展開に関する制度設計については、現行の支援制度の検討を行い、特に不登校や引きこもり児童への支援制度の整備が遅れていることを確認した。次年度は、具体的にどの様な支援制度が有効なのかについて研究を深めていく予定である。 今年度は共同研究初年度として研究体制の確立と各研究課題の予備調査を中心に研究を実施した。当初の研究計画に従ってほぼ計画通りに研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
事例研究対象としてS社会福祉施設を選定し、同施設の同意を得て共同研究を実施することになった。共同研究の内容について打ち合わせを行い、次年度から実証研究を進めることになった。 アグリセラピーの効果を評価するために心理テストの有効性を検討した。小中学生を対象とした調査では心理テスト実施の負担が軽いGHQ60が適していることを確認し、その実施方法を決めた。次年度から心理テストを実施し、アグリセラピーの効果に関するデーターを収集していくことになった。この調査によって、農作業や小集団での共同生活のどの要素が、心理的不適応児童の治癒と成長にどの様に関与するのかを解明していく予定である。 アグリセラピーを構成する食養生に関しては、食生活の改善が生活習慣病予防の効果を持つことは確認されたので、次年度はさらに食生活と生活習慣病に関する統計学的分析を進め、統計学的疫学研究の視点から生活習慣病予防に役立つ食生活の在り方を解明していく予定である。 アグリセラピーを構成する農業実践については、これまでの園芸療法での研究成果も踏まえ、また内外の事例比較調査も実施して、有効な農業実践の在り方を解明していく予定である。 アグリセラピーを契機とした共生福祉社会展開を支援する制度設計に関しては、内外の支援制度の比較や現地調査を通じて、支援制度の課題を解明していく予定である。 これらの研究成果を踏まえて、アグリセラピーの体系的モデルを提示するとともに、共生福祉社会のビジョン、その展開を支援する制度の在り方を解明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
事例研究対象としてS社会福祉法人を選定し、同法人の了承を得て共同研究を開始するまでに当初の予定より時間がかかり、本年度の同法人での合同調査が実施できなかった。このため合同調査は、次年度実施することとなり、そのための旅費等を保留することとなった。
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