研究課題
これまで採用されてきた家計消費行動から見る所得格差の発生メカニズム分析は生産活動における付加価値配分の視点を無視しているため、本研究は労働分配率の変化に注目し、インドネシアの所得格差発生メカニズムの解明を目的とした。そのため2017年度には過去20年間の農業およびそれに深く関連する製造業の生産要素市場の変化を分析し、2018年度にはそれぞれの生産構造の変化を分析した。最後の2019年度には、農業と製造業における賃金率の変化を分析し、労働分配率の変化を重点的に調べた。そこで先ず、高校や大学教育の拡充による賃金率の変化に注目した。計測結果を総合すると、1)学歴間賃金格差は縮小、2)大学教育の収益率は低下、3)非常勤/常勤雇用者の賃金率格差も縮小となった。すなわち、学歴間賃金率格差は縮小してきた。これは次の要因により生じた。1970年代には2.3%であった人口成長率も2010年代には1.1%まで低下した。さらに、高校や大学への進学率の上昇で、小学校卒や中学校卒の労働力の供給が減少し、彼等の賃金率が相対的に上昇した。将来的には小学校卒や中学校卒の労働力供給が非常に少なくなり、逆に、進学率の上昇によって高校卒や大学卒の労働力供給は増加し、彼らの賃金率上昇が抑制される。高校卒と大学卒間の賃金格差は小学校卒と大学卒、および中学校卒と大学卒の賃金率格差より小さいため、全体の賃金率格差は縮小する。今後、資本形成や技術進歩により労働生産性が上昇すれば、全体的に労働力需要は上昇する。そのとき中学校卒の供給は著しく減少しているため、彼等の賃金率はより上昇し、高校卒以上と中学校卒の賃金率格差は今よりさらに縮小する。このような傾向が持続すると全労働者相互間の賃金率格差がさらに縮小し、労働分配率は上昇し、所得格差の指標であるジニ係数の低下として現れてくると考えられる。
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大東文化大学経済論集
巻: 第112号 ページ: 113-132
国際開発学会第30回全国大会報告論文集
巻: - ページ: 682-696
15th Indonesian Regional Science Association International Conference, Banda Ache
巻: - ページ: 184-185