研究実績の概要 |
本年度は,地球温暖化被害に脆弱とされる,南太平洋島嶼国キリバス共和国の首都南タラワを対象として,生活環境及び農業生産の実態を調査,整理し,課題を検討した.生活インフラ等の格差から首都部において過密が進行し,あわせて独自の生活習慣から生活環境の悪化が進展していること,劣悪な農業生産条件のもと,野菜価格が極めて高く(2019年9月時点でキャベツ一玉が日本円で約2,500円),貧困層において生鮮野菜の摂取が困難であること等を確認した. 続いて,水資源利用の重要性に鑑み,地下水の汚染状況と農業生産における利用可能性,さらには降水量の実態について調査を継続して行った.地下水については,ほとんどのサンプルが農業用水として不適であり,結果として,現状では雨水に頼らざるを得ないことが示された.EC値がおおむね1,000μS/cm未満が農業用水としての利用基準となるが,3時点(サンプル数は10~14)における平均値と標準偏差(2反復)をみると,渇水期(1,685±1,631),小雨期(1,735±659),多雨期(975±326)であった.他方,雨水については,現地での実測値とモデル(気象庁JRA55)の推計値には大きな差(最大で約3倍)があり,モデルを単純には適用できないことを明らかにした. 地球温暖化が生活環境を含む社会・経済システムへ及ぼす影響については,定量的に因果関係を計測することは困難なこともあり,現時点では,基礎データの継続収集が重要であることを指摘するにとどまった.なお,現地では,水資源制約下での野菜試験栽培が行われていたが,単年度で休止となった.ここからは,人的資源の育成・確保という当初計画では予想していなかった観点が析出された.
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