研究実績は、次のとおりである。第一に日系移民が多く居住するブラジル・サンパウロとアルゼンチン・ブエノスアイレスとラ・プラタを対象とし た。本来の課題は、パラグアイ、ペルー、ボリビアにおける日系移民を対象にする予定であったが、全体的に広く浅くとなってしまうことが見られたので、日系移民の多いブラジルとアルゼンチンに絞った。4ヵ年実施した結果、移民は現地に同化しつつあるもキーになる部分は同化していないことがわかった。 第二にサンパウロとブエノスアイレスの沖縄県人会を通じて、移民の食文化継承に関して調査を3カ年にわたり実施した。サンパウロの移民で認識できていない年中行事は、世代を重ねるに従い食事の提供が省略されている。通過儀礼は、世代を重ねると認識できていても、実施していない。ブエノスアイレスでは、主要な年中行事を実施することにより県民性を忘れないようにしている。同様に通過儀礼も、形を変えながらも実施されている。 第三に、日本食の調理に不可欠な調味料は、現地で普通に販売していた。また日本の日常的な食事が移民のなかで継承されており、サンパウロの移民家庭では沖縄県の日常食が喫食されている。またブエノスアイレスも同様であった。現地の食文化を受容しつつも味噌や醤油といった日本食に欠かせない調味料は、調査結果からすると日系移民において今後も使用されていくものである。これらに関しては期間内に取りまとめできなかったが、2021年度に所属機関での予算を活用して成果をまとめる予定にある。 第四に、移民の送り出し元である沖縄県の食文化の現状について参与観察と文献を2019年度と2020年度に実施した。沖縄県の食文化継承に関した文献調査では、地域性を確保できている伝統的な食文化が家庭のなかに残されにくい環境にある。
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