本研究では,数や規模などの実態も十分研究されていない中山間地の傾斜農地の小規模災害に着目して研究を行った.豪雨災害(平成23年紀伊半島水害)と地震災害(平成28年熊本地震)における中山間地の傾斜農地の小規模災害の被災状況の調査から,その被災要因を地形・地質及び土質力学的な分析を行った.この結果,段畑または棚田において石積みおよび土羽構造の選択が表層地質的な要因により選択されていることを明らかにし,災害においては平成28年に生じた熊本地震の農地石垣の崩壊集中地域が表層地質境界部に集中していることを明らかにした。それらの分析結果をもとに,地域性が強い豪雨災害に対しては紀伊半島南部を対象地として気象ステーションを設置し,研究期間内にデータを収集することで分析結果の検証を行った.気象ステーションは,紀伊半島南部の御浜町,熊野市,紀宝町を中心に以前に設置したものと合わせて6箇所設置し,気象庁および三重県の気象観測データと合わせて比較的高密度な観測網を作ることができた.また,熊野市の独立峰となる長尾山山頂にも紀伊半島南部の代表点となりうる気象ステーションを設置し,比較的高層(850m付近)の気象データを入手可能とした.設置した気象ステーションによる観測の結果,紀伊半島南部においては紀伊半島の西側を通る台風進路により南向き斜面に有意に多い降水量をもたらすことを明らかにした.また,地震災害に対しては,分析結果をもとに農地石垣の崩壊形態を分類し,異なるメカニズムにより農地石垣の崩壊が起こることを観測により明らかにした.さらに農地石垣のの小規模災害に対する危険度判定指標を,農地石垣に設置した地下水観測結果をもとに土壌雨量指数から作成し,その有効性を示した.
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