研究課題/領域番号 |
17K08009
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大澤 啓志 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20369135)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 在来野生植物 / 景観資源 / 半自然草地 / 野焼き |
研究実績の概要 |
埼玉県加須市「浮野の里」において、絶滅危惧類ノウルシの住民による景観資源化と管理(野焼き等)の関係について調査した。当地区は利根川中流部の農村域で、地下の埋没谷から水が湧き出しているため過湿地となり、水田化されなかった湿地が点在する。1940年代後半以降の航空写真との比較より、規模のある生育地はいずれも耕作不適地として湿地が維持されてきた場所と重なっていた。本地区では住民により組織される「浮野の里・葦の会」が中心になり、ひと時中断していた湿地の野焼き活動が1997年より再開され、継続している。会活動の当初のシンボル的な植物はトキソウであり、保護増殖活動が盛んに行われて、現在県天然記念物となった。一方、野焼き再開に合わせて、湿地に自生しかつ春期に特徴的な群落景観を呈するノウルシに強く関心が向けられるようになった。地域の湿地を代表する景観植物資源であることを認識し、開花時期には来訪者向けのPR活動も行っていた。そして野焼きによる陽光の半自然草地の維持という生態学的な効果の有無とは別に、むしろ葦の会メンバーが「自分たちが野焼きを継続することでノウルシの生育地が守られている」と認識している点が重要と考えられた。そこでは、①野焼き作業→②景観資源としてのノウルシ群落の保全→③外部からの来訪者による地域の評価→④葦の会メンバーの地域への誇り→①…、という循環的フローが成立していた。謂わば在来野草類の景観資源化であり、外部来訪者の地域評価も意識しつつ、野焼きといった地域の伝統的な湿地管理手法によって生育地保全がなされていた。 千葉県鴨川市の大山千枚田において、棚田を特徴づける小動物として春季繁殖型両生類の繁殖状況の長期モニタリングを行い、その高い個体群サイズが維持されていることに対し、NPOによる棚田保全活動が重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発表までには至っていないが、「浮野の里」地区の調査地では半自然草地を代表する植物ノウルシ及び小動物カヤネズミの生育・生息実態の把握、及び地域住民への地域認識や管理意欲等についてのアンケート調査も終了し、現在、解析を進めている。この「浮野の里」以外の調査地として、西伊豆戸田地区での希少種タチバナ(生物多様性)を活かした特産品(小さな経済)作りと地域景観(文化的景観)の関係についての調査も概ね終了し、現在取りまとめている。また、栃木県那珂川町での住民主体の「農村の美しさ」を軸にした地域づくりのヒアリングや住民アンケートも進んでいる。本年度はデータの収集に多くの時間を割いたが、次年度以降は、順次それらの分析・考察を進めるため、全体的には順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
現在の平野水田域(埼玉加須市「浮野の里」)、中山間地域(栃木那珂川町)、海岸域山間部(西伊豆戸田地区)に加えて、他の地形条件での事例地での調査を進めるとともに、それらの横断的構造についての視点での分析を進める。 課題としては、生態的・文化的なランドスケープを客体として捉えるのではなく、住民の集合的認識として捉えることの論理構築である。これについては、那珂川町の事例で、都市部の若者(高校生)との交流により、住民(高校生も含む)が地域ランドスケープを再評価するプロセスが存在することが明らかになりつつあるので、今後、論考を深める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたヒアリング時の謝金が先方の辞退で支出が抑えられたこと、現地調査補助者が少数で済んだので旅費が抑えられた等により次年度使用が生じた。 次年度は、特に栃木県那珂川町の事例地での住民ワークショップの開催等も含め、より現地に入り込んだ調査・実践を行う予定で、そのための補助者の旅費や協力者への謝金等に充てる計画である。さらに、事例対象地における地域活動とランドスケープとの関係の結果としての生態基盤の生成についての調査もより詳細に行う計画である。
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