水や土壌等の環境サンプルからDNAを抽出し、その中に含まれている生物種のDNAの存否を通じて,そこに生息している生物種の生息の有無や分布を推定する環境DNA分析が注目されている。本研究では、環境DNAの塩基配列を決定し、その塩基配列をDNAデーターベースに照合することにより、農業水路系における魚類や甲殻類等の水生生物種を網羅的に検出可能な環境DNAメタバーコーディング手法を開発する。本成果は、これまで負担であった生物調査における個体採捕や種同定作業等を必要とせず、現行の生物調査法に代替する簡便かつ効率的な手法として、今後、関連分野における広い普及が期待されている。 令和2年度においては、当該年度の研究実施計画にしたがって以下の取り組みを行った。 前年度に引き続き、魚類の環境DNAメタバーコーディング手法の現地検証を進めるため、岩手県、茨城県、千葉県、京都府の計4地区の農業水路系において採水試料を採取した。環境DNA分析の結果、岩手県では17魚種、茨城県では43魚種、千葉県では26魚種、京都府では29魚種が検出され(一部は属レベルでの検出)、既存の魚類調査結果との比較により、各地区の検出魚類は概ね妥当と推察された。また、地区間における魚種数の差は、岩手県はため池、茨城県は水路・ため池・水利施設、千葉県と京都府は水路といった農業水路系環境の違いや地域性に基づくものと考えられ、環境DNAメタバーコーディング手法の有効性についても確認することができた。 以上により、本科研費課題は当初目標を達成でき、令和2年度で予定どおり終了する。
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