研究対象である沖縄県多良間島内の地下水観測孔において、淡水レンズ挙動を連続的に把握するための地下水位と多深度電気伝導率(EC)の30分間隔の自記観測を継続した。多深度EC観測データから深度方向に内挿してEC=200mS/mの等EC面の上下変動を把握し、地下水位観測データと組み合わせて淡水レンズ厚さの変動を連続的に把握した。 その結果、淡水レンズ厚さの時間変化に含まれる変動成分とその要因として、変動の周期あるいは期間が短いものから長いものの順に、(1)強い降雨によって数時間以内に起きる厚さの増加、(2)約12時間から26時間の間の特定の周期をもつ卓越潮汐成分の影響による同じ周期の増減振動、(3)台風の接近・通過等に伴う潮位変化の影響による2~3日間の一時的減少、(4)長期的な降水量変動に関係すると見込まれる1ヶ月程度以上の時間スケールの淡水厚さの変動が認められた。前年度に確認したように地下水位の変動では潮汐の影響が卓越し降水の影響はほとんど認められなかったのに対し、淡水レンズの下側境界付近の一定深度のECと、淡水厚さの変動には、その要因として潮汐に加えて降水の影響が認められた。 上記の分析においては、等時間間隔の長期間の連続的な時系列データを得ることによってデジタルフィルタなどの周波数分離手法を用いることができ、それによって卓越潮汐による振幅が大きな振動成分を除去して、卓越潮汐より短周期または長周期の変動成分の分析が容易となった。短周期成分を抽出することによって上記(1)の変動が明瞭に捉えられ、一部の強い降雨時のみに起きることが明確となった。また長周期成分を抽出した時系列データを降水量データと対比して分析することで、淡水レンズ厚さの長期変動(上記(4))には直近1年程度の累積降水量との相関があることが明らかとなった。
|