平成28年台風10号等による北海道帯広地域を中心に発生した大規模浸水災害で見られた畑地帯の侵食被害を再現できる数値モデルを構築した。浸水被害の評価は、これまで水田地域を中心に研究が行われており、浸水に伴う侵食・土砂の堆積は考慮されてこなかった。 本研究では、河川の河床変動解析で用いられる層流砂モデルと浮遊砂モデルを基礎方程式として採用し、これを研究代表者らが開発してきた「農業地域の浸水解析モデル」に組み込めるよう、有限要素法で定式化し、解析コードを開発した。ここで、有限要素法は、複雑な地形形状の農業地域のモデル化には適しているものの、流体解析で一般に用いられる差分法と比べて計算時間の面で不利となるため、並列計算を導入することで現実的な計算負荷で解析を実行できることを確認した。構築した解析モデルは、一般に用いられるベンチマーク問題との比較により動作検証を行いつつ、改良を図った。 数値解析モデルの検証等に利用する大型平面水理模型実験では、岡山県の児島湾干拓地の水理模型を製作するとともに、締切堤防の破堤を模型上で再現するための自動ゲートシステムを構築し、南海トラフ巨大地震を想定した浸水現象を再現できるシステムが完成した。また、岡山県が想定した南海トラフ巨大地震の際の津波波形データをもとに平面津波水槽で模型サイズに縮小させた津波が発生できるよう、ポンプの入力データを作成した。 以上のことから、本研究では、農地における土壌の侵食・堆積を再現できる浸水解析モデルが構築されるとともに、広く浸水解析モデルの検証を行うためのデータ収集基盤が整備された。
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