研究課題
環北極域の森林(北方林)は北東ユーラシアを中心として永久凍土上に成立している。この地域では将来、大幅な気温上昇とともに降水量の増加が見込まれており、気温上昇による凍土の融解深(季節融解層(活動層)の厚さ)の深化に伴う根圏土壌の乾燥化、および降水量増加による根圏土壌の湿潤化という真逆の可能性が示唆されている。このような背景から、将来の気候変動が永久凍土と共生的に分布する北方林の成長・維持に及ぼす影響を評価・予測するため、北方林と凍土のインターフェイスである根圏土壌の水分動態を解明することを本研究の目的とする。平成29年度は、東シベリアのカラマツ林を対象に、凍結・融解過程を考慮した土壌物理モデルを構築した。特に、陸域生態系動態モデルS-TEDyの土壌物理サブモデルで土壌の凍結・融解過程を表現する改良を進めた。地温の鉛直分布の計算には正弦変動モデルを用い、熱伝導率と体積熱容量の計算に凍結・融解の影響を組み込んだ。一方、土壌水分の計算は根圏土壌を一層で扱っているため、氷点下の土壌中の過冷却水の最大存在量が温度に依存して変化することを表現したモデルを組み込むことで、氷点下の土壌層全体の液体水はこの過冷却水の最大存在量に従い、それを超える土壌水分は凍結すると仮定して計算した。この改良により、東シベリアのカラマツ林で観測された液体水の土壌水分の季節変化を概ね再現することができた。また、秋の凍結前の土壌水分が氷となって翌年の春の融解まで保存される効果を表現できるようになった。さらに、このサブモデルを組み込んだ陸域生態系動態モデルでカラマツ林の動態を計算した結果、地上部バイオマスは既往の研究で報告された値を良好に再現でき、単木蒸散量についても実測値を概ね再現できた。
3: やや遅れている
平成29年度は、土壌の凍結・融解過程を考慮した熱・水輸送を説明する独自の多層土壌物理モデルを構築することで、東シベリアのカラマツ林で2005年から2009年まで高い土壌水分が継続した観測事実を再現することを目標としてきたが、モデル開発が遅れており、現在も開発が続いている。その一方で、最終的に土壌物理過程が永久凍土地域の北方林生態系に及ぼす影響を評価するためには、陸域生態系動態モデルS-TEDyの土壌物理サブモデルにおいて凍結・融解過程を表現できるようにすることが不可欠であるため、S-TEDyの土壌物理サブモデルに凍結・融解過程を組み込む改良を行った。そのため、当初の目標は達成できなかったが、研究の最終目標には近づいたと判断される。
遅れている多層モデルの開発を引き続き進める。同時に、陸域生態系動態モデルS-TEDyの土壌物理サブモデルについてもより精度を高める改良を行う。そして、これらの比較を行うことで、東シベリアのカラマツ林におけるプロセスの理解と将来予測を目指す。また、平成30年度に計画しているアラスカのクロトウヒ林の土壌におけるプロセスのモデル化も進める。多層モデルの開発はさらに遅れる可能性もあるが、その場合でもS-TEDyの土壌物理サブモデルは東シベリアおよびアラスカの両地域でプロセスを表現できるようにする。また、HYDRUS-1Dなど既往の土壌物理モデルの活用も検討して研究を進める。
東シベリアのカラマツ林におけるモデル検証のための実地調査が必要と判断されたため、平成30年度の観測出張の旅費として使用する。
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Anthropocene
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