研究課題/領域番号 |
17K08033
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
彌冨 仁 法政大学, 理工学部, 准教授 (10386336)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物病自動診断 / 深層学習 / 自動診断 / 植物病 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
植物、特に野菜や果実の病気を、高精度で、かつ簡単に診断できるシステムを開発するために、主に埼玉県農業技術研究センターの協力の下、一般的なデジタルカメラにおいて実際の環境下で撮影されたキュウリの葉画像を利用した深層学習器の構築を目指した研究を行った。実際の圃場で撮影される画像は、多様な背景や撮影状況の違いから頑健性の高いシステム構築が必要となる。本年は以下のような成果が得られた。 (1)画像認識分野で極めて大きな成果を実現しているconvolutional neural network(CNN)を、100万枚を超える大規模な異なる画像データセットで学習させた後、キュウリの診断を行う本来の学習を行う「転移学習」の枠組み、ならびにその他の頑健性を高める手法を用いることで、キュウリに対する主要なウイルス病全てに対して、圃場で撮影された画像に対して目標を上回る平均9割程度の識別精度を確認できた。この成果については現在論文投稿中である。(2)利用者に対して信頼性の高い識別器構築のため、識別根拠の可視化を検討した。べと病など病変が局所的に発生する病気に対して、意義のある診断根拠の提示が可能であることを確認した。(3)上記解析により、本来病気とは関係ない背景に診断根拠の部位が見られる例が少なくない数見られた。このことは識別器の過学習を意味しており、背景部分をマスク処理することで頑健性の向上が図れることを確認した。(4)来年度以降、より広範囲な自動診断のため、定点観測カメラなどから撮影された画像から解析対象となる葉領域抽出する深層学習を利用した手法を構築し、精度80.8%,再現度75.3%、検出スピード2.0fpsの手法を実現した。(5)将来の複数の病気に同時に感染した場合に対する識別アルゴリズムの検討を行った。 これらに関連し、国際会議論文1編、国内学会発表5件を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
29年度の主たる目標は、圃場などで撮影された実環境に近い状況の植物画像に対する頑健な識別器の構築であり、転移学習を用いる手法に様々な改良を加えることで、当初計画していた、過学習抑制のための「解析対象の低次元表現」についての開発・検討を行わなくても数値目標を達成することができた(上記成果1)。また、良好な計画の進捗により、当初の計画に含まれていなかった識別根拠の提示(同2、3)や、広域画像からの病気の検出(同4)、複数種類の感染の試み(同5)など、より実践的な成果につながる研究も開始でき、成果が出始めた。 また、研究計画を前倒しして解析できる作物の種類を増やすべく、そしてより多くの、かつ多様な学習用データを獲得するために、4作物(きゅうり、トマト、ナス、イチゴ)について、これまで大変お世話になってきている埼玉県を含めて計24府県からデータ提供をしていただけることが決まった。これまでに、こうした府県の担当者の方々とどのような病気を対象にすべきか、写真を撮影すべきかなどの議論を重ねてきた。 キュウリの場合、葉の領域での解析で多くの病気の診断が可能となったが、他の作物は他の部位の解析が必要となる病気も多い。特に株全体を解析しないと診断が行えない病気に対しては、植物の状況や、背景の状況のバラエティが遥かに増大し、撮影の方法も様々となる。 このため今後、農学的な知見を活かした効果的なより多くの学習データの獲得ならびに、工学的見地から頑健な識別アルゴリズムの開発が必要となる。
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今後の研究の推進方策 |
キュウリの典型的なウイルス病ほぼ全てに対して、良好な識別器の構築が完成し、30年度は予定通りウイルス病以外の菌類などの病気を含めた高精度な識別器を構築するとともに、他の作物(トマト、ナス、イチゴ)に対する識別器の構築も、画像の収集状況に合わせて先行して行っていく。 また上記に示した先行した研究内容(2)識別根拠の提示(3)前処理による頑健性向上(4)広角画像からの自動診断(5)共感染(複数の病気の感染)に対する診断の各項目についても実践的な診断システム構築のため、積極的に研究を進めていく。技術的には、引き続き画像処理技術と深層学習技術を主とする機械学習技術の組み合わせた手法で取り組む予定であり、特に進歩の早い後者については、最新の技術を逐次取り入れていく。 また、機械学習の最大の問題である過学習抑制につながる重要な技術として申請時に開発を予定していた「解析対象の低次元表現」については、昨年度は実施せずとも当初の目標を達成することができた。しかし今後解析対象の多様性が大きくなり、求められる問題がより難しくなることが予測されるため、まずは比較的簡単と思われるデータから、多くの検証・実験を行い、効果的で普遍的なデータの低次元表現の獲得手法の実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
関連する消耗品(GPU搭載コンピュータ等)について、一部汎用的な大学の予算などで購入することができ、また旅費についても研究の進捗により、予定数していた回数より少ない実績となったため、繰越しが発生した。次年度以降、効果的に活用していく。
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