研究課題/領域番号 |
17K08040
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
佐藤 幹 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20250730)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 乳牛 / 抗酸化 / トレハロース |
研究実績の概要 |
乳牛の酸化ストレスは、生産性の低下や周産期疾病の要因となるだけでなく、乳質、特に酸化臭を引き起こす原因となり、酪農産業における大きな問題となっている。我々は、乳牛用配合飼料にトレハロースを添加することがこの問題解決に現場レベルにおいても有効であること実証してきた。本研究では、なぜトレハロースが抗酸化活性を持つのかを明らかにする目的で、本年度は、ミルクと血清の解析から以下の2つを明らかにした。 ①トレハロース給与牛の生産する抗酸化ミルクは蛋白質画分が影響する トレハロース給与牛のミルクを分画し抗酸化活性を持つ因子を探索した。トレハロース給与牛から採取したミルクと対照牛から採取したミルクを脂質画分、タンパク質画分、それ以外の画分で分画し、水溶性の抗酸化活性の指標となるDPPHラジカル消去活性を測定したところ、タンパク質画分に抗酸化の本体が存在する可能性を示唆した。抗酸化を示す分子の分子量は10kDa以上であることを限外ろ過法により明らかにし、現在、その本体を同定である。 ②トレハロース給与牛の血清は乳腺細胞の抗酸化を増加させる 乳腺細胞にトレハロース給与牛の血清およびその分画したものを添加して、細胞、あるいは培地の抗酸化活性を測定したところ、対照牛の血清に比べ、培地中のDPPHラジカル消去活性が上昇していた。また、その成分は5000Da以下の低分子成分であることを明らかにした。現在、メタボローム解析により、対照牛とトレハロース給与牛の血清における分子を比較している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はミルクおよび血液からトレハロースの抗酸化改善作用メカニズムを明らかにすることを試み、ミルク中の抗酸化活性を発揮する因子はタンパク質であり、血中因子は細胞生物学的手法により低分子であることを明らかにした。 すなわち、トレハロースを乳牛に給与した場合の抗酸化メカニズムは、ルーメン→血液→乳腺→ミルクを通じてそれぞれ異なる分子が機能している可能性を示す結果となった。この結果は、これまでの抗酸化物質にはないユニークな抗酸化発現メカニズムである。 よって本研究は、当初の計画通りに進行している。最終年度である平成31年度は、ミルクと血清の抗酸化を発揮する成分を同定し、抗酸化活性の分子本体を探る試験を予定している。本研究が完遂すれば、これまでにない新たな抗酸化発現経路が提示できるものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、事業計画に沿って以下の試験を行い、トレハロース給与牛の抗酸化発現メカニズムを引き起こす分子に迫る。 ・SDS-PAGEおよびプロテオーム解析により、ミルク本体における抗酸化を示す分子を同定する。 ・同定した分子が実際の酪農現場における乳牛の抗酸化に機能しているかを確認する。 ・トレハロース給与牛のメタボローム解析は進行中である。現時点では、数種の中間代謝産物が、対照牛とトレハロース給与牛で異なる可能性が示されており、これらのうち、手に入れることができる化合物を乳腺細胞に添加し、ミルクの分析で同定した分子の遺伝子発現やその合成量が増加することを確認する。 ・血清因子がルーメン微生物由来であることをin vitro培養系で証明する。血清で検出された因子がルーメン微生物由来であることを、in vitro微生物培養の培養液にトレハロースを添加して証明する。 以上の解析を通じて、これまで飼料中の抗酸化物質は、吸収されて生産物に移行する、とのこれまでの定説とは異なる反芻動物特有の抗酸化メカニズムを提示できるものと期待している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
メタボローム解析を行うために分析委託を行う予定であったが、結果が年度内に報告されなかったため、次年度繰り越しとなった。 消耗品等に関しては、本年度はタンパク質の分析および限外ろ過による分画のみであったため、細胞を用いた解析に消耗品を使用しなかったので繰り越しが生じた。計画通り、現在進めている細胞解析を行うために、最終年度である平成31年度は多くの消耗品を効率よく使用することとした。
|