子牛の鉄欠乏性貧血は古くから知られた飼養上の課題であるが、今なお未解決な課題である。ヘプシジンは、フェロポルチン(鉄吸収ならびに再利用を促進する鉄排出トランスポーター)の分解を引き起こすことを通して、血中鉄濃度を負に制御する肝臓由来のホルモンである。この経路に着目して子牛の鉄代謝を評価すれば、子牛の鉄欠乏性貧血の根本的な解決策に向けた基盤情報を得られる可能性がある。本研究は、子牛の成長に伴うヘプシジン関連因子の血中濃度変化、ならびに、ウシヘプシジン遺伝子発現制御の解明を主目的としている。 子牛の出生直後から4か月齢までの血中鉄代謝関連分子濃度を経時的に調べたところ、血漿鉄濃度ならびにヘマトクリット値は1週齡から4週齡にかけて基準値を下回る傾向を示した。つまり、この時期の子牛は貧血になりがちである可能性を示している。血中ヘプシジン濃度は、出生24時間以内では高値を示し、それ以降はほぼ一定の値を示した。同様の経時変化は、血中フェリチン濃度でも認められた。これらの結果は、この時期の鉄代謝は、必ずしもヘプシジンによって制御されているわけではない可能性を示唆している。これまでに鉄栄養状態に応じたヘプシジン発現制御は、BMP6を介したSmad経路によって行われていることが知られているので、ウシSmadとマウスSmadのヘプシジン転写能を比較した。その結果、ウシSmad4はマウスSmad4に比べてヘプシジン転写促進能力が低く、この違いは、必ずしもアミノ酸の相違によるものではないことが明らかになった。また、この転写能の違いは、ヘプシジンプロモーターに限定されず、BMPシグナルを評価する一般的なレポーター転写でも認められたことから、Smad4の転写調節因子としての活性に種間差がある可能性が考えられた。
|