研究課題/領域番号 |
17K08053
|
研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
中尾 暢宏 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 准教授 (60377794)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ニワトリ / 発生・分化 / HSP90 |
研究実績の概要 |
多くの鳥類の種卵は、適切な温度管理により胚の発生を停止、再開できる長期保存機構を備えている。この長期保存機構には、細胞周期や細胞分化の停止が考えられるが詳細な分子メカニズムは不明である。研究代表者は、この長期保存機構をニワトリ胚の発生の停止と再開機構に着目し、発生の制御に関与する148個の分子の抽出に成功した。さらにこれらの分子の解析からHeat shock protein 90 (HSP90)は、発生を制御する候補分子であることを見いだした。ニワトリの発生過程は哺乳類に類似し分子レベルでは、本質的に脊椎動物と同じ基本過程が生じていることから、発生の停止と再開に関与する分子の発見は、養鶏業への応用のみならず発生生物学、組織工学の分野においても応用が期待できる。本研究では、HSP90によるニワトリ胚の発生停止と再開の人為的制御と機能解析を実施しHSP90による発生制御機構を解明することを目的とする。昨年度はHSP90のmRNAおよびタンパク質ともに胚全体で発現していることを明らかにしたが、さらに心臓や肝臓、翼、脚における詳細なHSP90の発現を確認した。また、心臓におけるHSP90の発現は温度刺激の経過時間とともに増加する傾向があった。次にニワトリ肝臓由来LMH細胞株を用いて培養温度変化時およびHSP90の阻害剤添加時における細胞周期をフローサイトメーターで検討したところ、ニワトリ胚で発生の停止・遅延が観察された低温条件下で約90%の細胞において細胞周期が停止していた。さらにこの細胞を孵卵条件下に近い37度に移行した際において、HSP90阻害剤の添加は約12%の細胞分裂を阻害した。これらの結果より、HSP90の阻害剤は細胞周期の制御に関与していると考えられたが、全ての細胞の周期を制御できなかったことから阻害剤の反応時間やHSP90の過剰発現細胞を用いて検討する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度実施計画は、II. HSP90による細胞周期の制御である。始めにニワトリ胚の肝臓および心臓由来の初代培養細胞を用いてHSP90の阻害剤による細胞周期の検討を行った。in vitroの細胞培養系の確立はできているものの、HSP90の阻害剤のなかでも特に特異性の高い阻害剤を用いて容量依存的な試験を実施したところHSP90の阻害剤の細胞毒性が強く細胞周期の制御の詳細までは解析できなかった。そこで、初代培養細胞は継代維持により細胞の形質も変わることがあるためニワトリ肝臓由来の細胞株を用いて、別のHSP90阻害剤の検討に時間を有したため平成30年度の実施計画であるHSP90の過剰発現細胞を用いた検討まで至らなかった。しかしながら、ニワトリ肝臓由来の細胞株においても細胞周期の制御が検討できる可能性が見いだせたため、この結果を踏まえて次年度のin vivoにおけるHSP90による発生制御の解明に応用できると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度の計画でHSP90の阻害剤により細胞周期を制御できる可能性があるが、全ての細胞の細胞周期を制御できなかった。そのため、HSP90の阻害剤の反応時間や細胞周期のS期の指標となるBrdUの取り込み時間を検討しHSP90による細胞周期の制御の再検討を行う。また、HSP90を発現する発現ベクターを構築しHSP90遺伝子を一過性に過剰発現させることにより、HSP90による細胞周期進行の制御について解析を行う。発現ベクターの構築の準備は既に整っている。この発現ベクターは、ウイルスベクターを用いるため引き続き令和元年度の研究計画であるⅢ. in ovo 投与を用いたHSP90による発生制御の機能解析に用いる。具体的には、HSP90を発現するレンチウイルスを作成しニワトリ胚(E8)にin ovo投与する。in ovo投与後、ニワトリ胚を低温条件下で24時間孵卵させHSP90により低温条件下で発生が進行できるのかを検討する。次にHSP90の働きを平成30年度で検討したHSP90阻害剤によりin ovoノックダウンする。孵卵温度で発生を延期、停止できるのか検討を行い、HSP90が発生の停止と再開のどちらにあるいは両方に関与しているのか同定を行う。以上を実施しHSP90によりニワトリ胚の発生の停止と再開が制御できるのかを明らかにする。
|