多くの鳥類の種卵は、適切な温度管理により胚の発生を停止、再開できる長期保存機構を備えている。この長期保存機構には、細胞周期や細胞分化の停止が考えられるが詳細な分子メカニズムは不明である。研究代表者は、この長期保存機構をニワトリ胚の発生の停止と再開機構に着目し、ホールトランスクリプトーム解析からHeat shock protein 90 (HSP90)は、発生を制御する候補分子であることを見いだした。ニワトリの発生過程は哺乳類に類似し分子レベルでは本質的に脊椎動物と同じ基本過程が生じていることから、発生の停止と再開に関与する分子の発見は、養鶏業への応用のみならず発生生物学、組織工学の分野においても応用が期待できる。本研究では、HSP90によるニワトリ胚の発生停止と再開の人為的制御と機能解析を実施しHSP90による発生制御機構を解明することを目的とした。昨年度に実施したHSP90の胚全体における発現様式とニワトリ肝臓由来LMH細胞を用いた細胞周期の解析から、HSP90は細胞周期を介して発生を制御していると考えられた。そこで、ニワトリ胚肝臓より調製した初代培養細胞を用いてHSP90の阻害剤による細胞周期の制御を検討したところ、HSP90の阻害剤は細胞周期をG2/M期で停止させること、さらにHSP90発現ベクターの細胞内導入は細胞周期が停止、遅延している低温条件下でS期への進入を促進した。このことから、HSP90はG2/M期チェックポイントとS期の進入に関与していると考えられた。次に、ニワトリ胚にHSP90阻害剤をin ovo投与したところ、孵化日が遅延する個体もありHSP90による発生制御の可能性が推測されたが、HSP90発現ベクターのin ovo投与は発現部位の局所化および発生ステージにより遺伝子導入効率の違いがあり、HSP90による人為的な発生制御には更なる検討が必要である。
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