|
牛では早期胚死滅等による受胎率の低下が長年の課題であり、その解決には母体による胚（胎子）の正常な「認識」と「受容」のメカニズム解明が必要不可欠である。本研究の目的は、妊娠初期の牛における免疫応答系、特にケモカインによる子宮や免疫細胞の局所機能調節機構を解明することにある。本年度は、妊娠初期の牛子宮内膜ならびに子宮腔に免疫細胞が流入（遊走）するメカニズムを明らかにするため、免疫細胞の遊走作用に及ぼすケモカインの影響を検討した。
発情周期中期にある黒毛和種から血液を採取し、密度勾配遠心法を用いて、リンパ球、単球、顆粒球を含む白血球画分を作成した。細胞遊走アッセイキットに付属する96well-plate（pore size 5μm）に白血球を播種し、ケモカイン（CCL2、CCL8、CCL14、CCL16およびCXCL10）ならびに胚由来の妊娠シグナルであるインターフェロンタウ（IFNT）（いずれも100 ng/ml）を添加した後、18時間培養を継続した。定法に従って蛍光測定・解析した結果、ポジティブコントロールとして用いた牛胎児血清とともに、CCL8、CCL16、CXCL10、IFNT添加区において、対照区と比較して有意な白血球の遊走作用が確認された。前年度までの研究から、本実験で用いた５つのケモカインが妊娠初期の牛子宮内膜で発現が増加すること、そのうちCCL8とCXCL10は白血球でも発現上昇が認められることを明らかにしてきた。これらの結果から、妊娠認識時にIFNTなどの刺激を受けて白血球が分泌するCCL8やCXCL10は、自身の遊走を誘導することが示唆され、胚―子宮内膜―免疫細胞間のクロストーク機構にケモカインが密接に関与することが示された。
|
