本研究は、血管作動性ペプチドであるアドレノメデュリン(AM)のウシ胎盤形成における機能調節因子としての役割を検証するとともに、母体血中AM動態と後期胚死滅との関連性を明らかにすることで、後期胚死滅の指標としての有用性を検証することを目的とする。本年度は以下の研究を実施した。 1)後期胚死滅に伴う血管作動性物質を含む母体末梢血中の内分泌動態の解析 妊娠40日目の黒毛和種雌牛の子宮内に高張食塩水を投与することで胚死滅を誘起し、AM、エンドセリン1(ET1)、妊娠関連糖タンパク質1(PAG1)およびプロゲステロン(P4)の血中動態を解析した。胚死滅誘起後、胎仔心拍および血流は6時間以内に消失し、発情は12から14日目に回帰した。血中AM濃度は胚死滅誘起後2日目から減少した。血中PAG1濃度およびP4濃度は胚死滅誘起後10日目以降に減少したが、血中ET1濃度は胚死滅による変化はなかった。この結果から、母体の血中AM濃度は後期胚死滅後の早期に減少することが明らかとなり、胚死滅発生の指標として有用である可能性が示された。 2) ウシ胎盤形成における主要な機能調節因子としてのAMの生理的役割の解明 AMが栄養膜細胞と子宮内膜上皮細胞の接着におよぼす効果を検証した。子宮内膜上皮細胞を播種した48ウェルプレートに、蛍光色素(CytoTracker)をラベリングしたウシ栄養膜細胞株(BT-1細胞)を加え、AM(0、10、100nM)およびAM(100nM)+ AMアンタゴニスト(1000nM)を添加して24および48時間共培養した。共培養後に非接着細胞を除去し、接着した細胞を溶解して蛍光強度を測定した。その結果、子宮内膜上皮細胞とBT-1細胞の接着にAM添加による効果は見られず、AMはウシ胎盤形成における栄養膜細胞と子宮内膜上皮細胞の接着には関与していない可能性が示された。
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