研究課題/領域番号 |
17K08066
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
ThiThi Zin 宮崎大学, 工学部, 教授 (30536959)
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研究分担者 |
小林 郁雄 宮崎大学, 農学部, 准教授 (20576293)
椎屋 和久 宮崎大学, 工学部, 助教 (00347048)
Pyke Tin 宮崎大学, 国際連携センター, 客員教授 (70536961)
濱 裕光 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 名誉教授 (20047377)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 農学 / 動物生産科学 / 情報通信技術 / 画像処理 / 牛の発情検知 / 繁殖 / 牛のモニリングシステム / 牛の分娩監視システム |
研究実績の概要 |
本研究開発では、牛のモニタリングシステムの構築に不可欠な非接触・非侵襲での個体識別、発情検知、分娩開始時刻予測技術の開発を行った。まず、大分県の大規模A牧場においてロータリーパーラー上のホルスタイン種の個体識別に取り組んだ。解析手法として、ローリング・スキュー・ヒストグラムとニューラル・ネットワーク技術を融合させたハイブリッド法を開発したが、学習後のネットワークは、高い識別精度を示した。センサベースの個体識別システムに比べて、提案手法はビデオカメラを使用するので、高価なセンサを牛に装着する必要がなく、低コストで、牛にストレスを与えない。 次に、多くの発情検知システムにおいては乗駕行動が用いられてきたが、ここでは精度向上のために、乗駕行動以外の発情前兆行動を用いる手法の開発を目指した。「1頭の牛の動き」や「2頭の牛の相対距離と相対角度」の時間的な変化から発情期に特有の特徴を抽出し、発情牛と非発情牛との違いを検知する手法を開発した。新しい概念「仮想接地点」を導入することで、いくつかの問題が解決した。3次元座標が得られることで、実際に近い牛の動きが求まり、神経質に激しく動き回ったり、臭いを嗅いだりする等の発情前兆行動の検知が可能となった。 さらに、牛の分娩監視システムにおいて分娩開始時刻の予測は重要なものである。分娩前の起居特徴(立ったり座ったりする)に加えて、2つの行動特徴(尻尾を上げる・脚を伸ばす)を抽出した。360°カメラおよび3Dカメラから得られた分娩前のデータを解析した結果、分娩直前で起居回数が増加する傾向があり、適当な閾値を設定することで分娩開始時刻の予測が可能となった。また、「尻尾を上げる」回数は全ての牛が、「足を伸ばす」回数はほとんどの牛が、分娩直前で増加した。これらのパラメータは、時間に関して単調増加であり、分娩開始時刻の予想が可能であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個体識別に関する実証実験は、A牧場で撮影されたビデオデータセットを用いて、60頭の牛を対象に行われた。その結果、リアルタイムで平均識別精度96.3%が得られた。データセットには、60頭の牛のパターンの20672枚の画像が含まれている。2頭に対しては70%台の識別率であったが、その他の牛に対しては、ほぼ100%近い識別率を示した。低い識別率となった例は、影や土埃などの照明条件や撮影環境に原因があり、比較的容易に改善できると考えている。 次に、住吉牧場で発情期検知に関して、乗駕行動を利用する手法と乗駕行動以外の発情前兆行動を利用する手法の実験を行った。前者はフレーム間差分からオプティカルフローを求める手法で、発情12シーン、非発情2シーンを用いて実験を行った。後者は「仮想接地点」を用いる手法で、発情7シーン、非発情1シーンを用いて実験を行った。実験結果は、前者、後者ではそれぞれ発情2シーン、1シーンが未検知となり、非発情シーンは全て正しく判定された。このように、提案手法の有効性は確認されたが、今後データ数を増やして、安定性、信頼性と同時に精度向上を図る必要がある。 さらに、住吉牧場で分娩前の牛の行動特徴に関する実験を行った。分娩開始推定時刻の約72時間前(3日前)から観察を開始し、分娩開始まで、次の3つの行動の頻度(時刻)を重点的に記録した:(1)起居、(2) 尻尾を上げる、(3) 脚を伸ばす。起居の姿勢を変えることは最初の2日間で時折発生したが、「尻尾を上げる、脚を伸ばす」ことはまれにしか生じなかった。ほとんどすべての牛は、通常、分娩前6時間の間に立位から起居の姿勢を変えた。そして、出産前3時間以内に脚を伸ばした。また、出産前5時間以内には、尻尾を上げる頻度が極端に増えた。上述のように行動変化から分娩開始時刻が予測できることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の研究実施計画 最終年度である平成31年度は、既開発技術の改良を進めると共に、発情検知技術と分娩監視技術が開発の中心となる。(1)乗駕行動に加えて発情期に特徴的な前兆行動による発情検知と(2)分娩開始時刻の早期予測技術の開発を中心にした分娩監視技術の開発と性能向上に取り組む。開発アルゴリズムの頑健性・安定性を確保するために、シーンの数と牛の頭数を増やす必要がある。個体識別に関しては、多少の改善の余地はあるが、ほぼ完成している。 発情検知に関しては、発情期に特有の動きの変化に注目し、その変化から早期の発情検知を目指す。まず、一定時間内続けて閾値以内の距離にいる2頭に注目し、ビデオ画像からモデルベースで3次元復元し、3次元空間における牛の相対距離と相対角度を求める。このことから、発情時と非発情時ではそれぞれ異なる特徴量を得ることができる。ここでの、2頭間に注目し、検知を行っていく手法に対して、1頭の牛についても発情期に特有の神経質な動きをするので、発情検知の可能性を追求する。 また、分娩監視に関しては、抽出する特徴行動としては、牛の尻尾が上がっているか、牛が立っているか、座っているか、脚を伸ばしているか、子牛を出産したか、親牛が子牛を舐めているか等について、それぞれのフェーズで自動的に異常を見つけ、通報を行うシステムの開発を目指していきたい。まず、上述の特徴量を用いた分娩開始時刻の推定に注力する。提案手法の有効性は予備実験から確認済である。 さらに、これまでに得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。研究成果の公表に関しては、今年度に限らず本研究期間全体を通じて、成果が挙がり次第、積極的に行っていく。前年度までの研究体制を引き継ぎ、研究代表者Thi Thi Zinの下に各研究者が分担して開発してきた要素技術の統合に向けて、全員が協力して取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に不可欠なソフトウェアのライセンス更新と研究打合せを密に行い、研究成果を多く発表するために次年度にできるだけ多くの予算を確保した。 (使用計画)研究成果の投稿費、研究成果発表と研究打合せ
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