斜面崩壊した野草地(半自然草原)の植生が自然回復する過程を崩壊深度との関係において定点調査を実施した。深度60 cm~80 cmの黒色土層内で崩壊した斜面(浅表層崩壊面:浅崩区)および深度150 cm~200 cmの黒色土層とその下層の褐色土層との境界付近で崩壊した斜面(深表層崩壊面:深崩区)を調査対象とした。幅1 mのトランセクトを斜面に沿って前者では長さ48 m,後者では長さ28 mとしてそれぞれ設置した。また,両区とそれぞれ隣接する非崩壊面においても,同長のトランセクトを並行して設置し対照とした。これらのトランセクト上に2 m間隔で1 m×1 mの方形区を設定し,植物種組成を調査した。また,表土の理化学性をそれぞれ区間で比較した。 植被率は崩壊後年数に比例して増加し,浅崩区では深崩区よりも有意に高く,崩壊後8年目である2020年には前者で83%,後者で50%であった。両区において非崩壊面との間の種組成類似度は浅崩区で深崩区よりも有意に高く,崩壊後8年目には前者で58%,後者で52%であった。崩壊後8年間で植生は経年的に回復しており,その進度は浅崩区の方が深崩区よりも速かった。表土の理化学性についてみると,土壌硬度は崩壊深度により影響が強く,深崩区では浅崩区および非崩壊面よりも有意に高かった。浅崩区での崩壊8年目の植物出現種数および種多様度指数H’において非崩壊面との間で差がなく,植物種組成の類似度が58%であったことを併せれば,植物種の多様性は回復しているが,崩壊前とは種組成が異なっていると考えられた。 一般に斜面崩壊は生物多様性に負の影響を及ぼすことが懸念される。しかし,その自然撹乱により植物生育環境が空間的に不均一となることで,地域生態系の多様性を高めることにつながり,結果的にそこに生育する植物種の多様性を維持する要因となっている可能性も考えられた。
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