研究実績の概要 |
本研究では、抗体の親和性・特異性を制御するための論理的分子設計手法の確立を目指している。具体的に本研究課題では、インフルエンザウイルスの表面糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)と中和モノクローナル抗体S139/1との複合体構造を用いて、分子動力学(MD)計算から得られる結合自由エネルギーを指標に抗体の結合能を改変し、エスケープ変異株や複数のHA亜型のウイルスを中和する抗体の設計を試みている。このような立体構造を基盤に既存抗体の親和性・特異性を改変する技術は、様々な人獣共通感染症の診断・治療研究へ幅広く応用されることが想定される。
S139/1は、複数のHA亜型(H1,H2,H3,H13およびH16)に対して中和活性を示す。本研究ではH6、H7やH9亜型のウイルスに対しても中和活性を示すようにS139/1の改変を試みている。本年度は、H3HA-S139/1の結晶構造(PDB ID: 4GMS)を鋳型に、H6,H9亜型を含む計10種のHAとS139/1との複合体構造を分子モデリングにより構築した。それらを初期構造に分子動力学計算を行い、各HAとS139/1との結合自由エネルギーを計算した。また、結合に対する各残基ごとのエネルギー寄与を解析した。これらの結果に対し、主成分分析を行った結果、HA上の156番目の残基が中和、非中和に大きく寄与いていることが示唆された。現在、動的残基間相互作用ネットワーク(dRIN)解析を行い、この残基との相互作用に深く関わる抗体側のアミノ酸残基を探索している。
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