研究実績の概要 |
パーキンソン病(PD)患者に高頻度に併発する難治性の認知障害の発症機構を解明し創薬の手がかりを見出す目的で、中脳黒質のDA神経細胞を特異的に破壊する1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)をマウスの腹腔内に投与することでPDモデルマウスを作出した。平成29-30年度において、①PDマウスは、海馬の歯状回のcAMP-PKAシグナルの減弱化に起因する活性型CREBの発現低下を引き起こし、controlマウスと比べ記憶の消去が亢進し記憶の保持能力が低下すること(Life Sci.[2015]137:28-36)、②PDマウスにphosphodiesterase IV阻害薬であるrolipramを投与すると、亢進していた記憶の消去機能がcontrolマウスのレベルにまで有意に回復することを報告した(J.Pharmacol.Sci.[2017]134:55-58) (特願2017-018172)。令和元年度は、①rolipramよりも副作用が少ないセロトニン5-HT4受容体の選択的作動薬であるvelusetragならびにprucaloprideが当該認知症に有効であることを見つけ (特願2017-064344)、これらの薬の作用が、②海馬歯状回のcAMP-PKAシグナル系を活性化し当該領域の活性型CREBの発現を回復させることに起因すること、ならびに、③PDマウスの黒質ドパミン神経の障害は、同黒質領域に存在するGABA神経の機能低下を引き起こし、その結果GABA神経の投射先である縫線核のセロトニン神経と、当該セロトニン神経の投射先である海馬神経(黒質-縫線核-海馬・神経回路)の機能低下が生じ、認知症発症の原因となる仮説を提唱した(Int. J. Mol. Sci. [2019] 20(21):5340)。
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