研究課題/領域番号 |
17K08076
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
海野 年弘 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90252121)
|
研究分担者 |
齋藤 正一郎 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (60325371)
松山 勇人 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (80345800)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | バソプレシン / ムスカリン受容体 / M2サブタイプ / ノックアウトマウス / 体液調節 / アルドステロン / 視床下部視索上核 / 視床下部室傍核 |
研究実績の概要 |
体液量の調節は生命の維持に必須であり、流入水分量と排出水分量は、神経性・体液性因子の調節により厳密に制御されている。本研究では、神経伝達物質の一つであるアセチルコリン(ACh)の作用を仲介するM2ムスカリン受容体サブタイプに着目し、体液調節に重要な役割を果すバゾプレシン(AVP)の合成や分泌調節に同サブタイプが果たす新たな制御機構を解明する目的で、サブタイプ欠損マウスを用いてAVPの分泌調節機構を検討した。今年度に得られた成果の概要は以下のとおりである。 ①M2-KOマウスの脳切片において抗AVP抗体を用いた免疫染色を行い、視床下部視索上核および室傍核における陽性細胞を計測し、野生型と比較した結果、室傍核におけるAVP陽性細胞の数は両者で差が認められなかったものの、視索上核ではM2-KOマウスで有意に減少していた。②ELISA法により脳標本中のAVP含有量を比較したところ、M2-KOおよび野生型マウスの間で差は認められなかったが、血漿中AVP濃度はM2-KOマウスで有意に減少していた。③排尿量、排尿回数および飲水量を計測した結果、M2-KOマウスではいずれも野生型に比べ有意に増加しており、多飲・多尿の状態になっていた。④多飲・多尿の原因として、AVPの減少だけでなく腎機能の異常(V2受容体の減少や反応性の低下)も関与しているのかを明らかにするため、M2-KOマウスの腎臓におけるV2受容体の発現量および反応性をELISA法およびデスモプレシン投与試験により検討した結果、いずれも野生型と差は認められなかった。 以上の結果は、M2ムスカリン受容体サブタイプが視索上核におけるAVPの合成・分泌を促進性に制御していることを示唆している。以上の成果は、Journal of Endocrinology誌に発表した。また、国際薬理学会(2018年7月、京都)にて発表予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、一部の実験項目を次年度検討予定の項目と入れ替えたものの、当初予定していた実験項目をおおむね終了することができ、研究実績の概要に記載した成果が得られた。しかし、当初研究計画に予定していた「血漿浸透圧の感知機構の評価」に関する実験については実施しなかった。高張食塩水およびポリエチレングリコールの腹腔内投与は、それぞれ血漿浸透圧の上昇および循環血液量の減少を生じさせ、AVP分泌を促進させる手法として用いられている。そこで、当初の予定では、M2-KOマウスにこれらを腹腔内投与し、血漿中AVPの濃度変化を測定することにより、浸透圧および容量受容器の反応性にM2サブタイプが関与するか明らかにするつもりであった。しかし、M2-KOマウスでは、視索上核におけるAVP陽性細胞の数および血漿中AVP濃度がもともと減少していることから、高張食塩水およびポリエチレングリコールの腹腔内投与を実施しても血漿中AVPの濃度の変化について野生型との厳密な比較ができず、得られた結果の評価が困難になることから実施を見送った。しかし、浸透圧および容量受容器の反応性にM2サブタイプが関与するかどうかを明らかにすることは非常に重要であり、次年度にはこの問題に取り組むため、野生型マウスを用いてこのような実験を行い、M2サブタイプに比較的選択性を持った拮抗薬の効果を検討することを計画している。
|
今後の研究の推進方策 |
29年度に引き続き、①M2サブタイプを介したAVPの促進性調節がどのようなメカニズムで発現するのか、②AVPの促進性調節をもたらすコリン作動性神経はどの様な神経回路を形成しているのかについて検討するとともに、③アルドステロンの分泌調節にもM2サブタイプが関与しているのかについて新たに検討を加える予定である。具体的な項目としては以下の点を計画している。 ①M2サブタイプを介したAVPの促進性調節メカニズム:パッチクランプ法によりAVPを分泌する巨細胞性神経分泌細胞(MNCs)から膜電流反応を記録し、ムスカリン受容体作動薬による電流反応効果およびその効果に対するM2サブタイプに比較的選択性を持った拮抗薬の効果を解析する。②AVPの促進性調節をもたらすコリン作動性神経の回路形成:AVPの分泌が促進する情報伝達経路上にコリン作動性神経が関与するかどうか検討するため、野生型マウスにおいて高張食塩水またはポリエチレングリコールの腹腔内投与、あるいはコリン作動薬の投与を行い、神経活動により増加するc-Fosの発現量を解析する。また、c-Fos発現量の変化に対するM2サブタイプに選択性な拮抗薬の効果を解析する。さらに、M2受容体抗体およびAVP抗体を用いた二重染色により、AVP合成細胞におけるM2受容体の局在の有無および視索上核および室傍核周辺におけるM2受容体の局在を確認する。③アルドステロンの分泌調節におけるM2サブタイプの関与:AVPと同様に体液量を保持するホルモンとしては、副腎皮質から分泌されるアルドステロンが知られている。そこで、アルドステロンの分泌調節にもM2サブタイプが関与しているか明らかにするため、M2-KOマウスにおける血漿アルドステロン濃度、およびアルドステロンの分泌を促進性に調節するACTHの濃度を測定し、野生型と比較する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は、血漿中バソプレシン濃度に及ぼす高張食塩水およびポリエチレングリコール投与の影響を検討する予定であったが、実験の実施を見送ったため、バソプレシン濃度測定のサンプル数が今年度計上していたサンプル数より少なくなり、その分の余剰が生じた。また、M2受容体の局在を検討する免疫組織化学的実験についても、予定していた抗体の入手ができなかったため、余剰が生じた。これらの実験については、次年度実施する予定である。
|