研究課題
筋萎縮性側硬化症(ALS)の大部分は遺伝子変異を伴わない孤発例が占めている。核に存在するRNA結合蛋白質 TDP-43が、病巣部において高度な蛋白質修飾を受けた形で細胞質に異所局在する事がこれまでに報告されており、この異常な蛋白質の細胞質での蓄積とTDP-43の核からの消失が、疾病の発症・進行に重要な役割を担っているものと考えられている。私は内在性TDP-43の発現を抑制したヒト株化細胞における遺伝子発現プロファイルの解析より、TDP-43の発現抑制によりmRNA及びその翻訳産物の発現が劇的に低下する遺伝子、TDP-43 regulated gene (TRG、仮称)を同定した。ALS発症におけるTRGの関与の解明を目的に、HEK293AびHeLa細胞を用いた強制発現系での解析を進め、1)TRGはTDP-43から切断遊離されALS病巣に蓄積する高毒性C末断片(CTF-25)に結合する、2)TRGはCTF-25の不溶性分画の発現量を低下させる、3)野生型TRG依存的にユビキチン化CTF-25が増加する、以上3点をこれまで明らかにした。令和元年度は、TRGの各種変異体を用いた解析を進め、CTF-25のユビキチン化はTRGの酵素活性に依存している事を明らかにした。ところが、TRGの強制発現により細胞のプロテアソーム活性が低下する事が明らかとなり、ユビキチン化CTF-25の増加は、TRGによるプロテアソーム活性の抑制による事が示唆された。また、マウス神経芽株化細胞であるNeuro2A細胞を用いた解析から、CTF-25の毒性に強い関連性のある409番目と410番目のセリン残基のリン酸化は、TRGの強制発現によりむしろ増加する事が明らかとなった。以上の培養細胞を用いた実験より、TDP-43欠損によるTRGの発現低下はむしろALS進行に保護的に働く事が示唆された。
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Journal of Alzheimer's disease
巻: 75 ページ: 45-60
10.3233/JAD-191081.