研究課題/領域番号 |
17K08081
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
谷口 喬子 (岩田喬子) 宮崎大学, 産業動物防疫リサーチセンター, 助教 (50500097)
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研究分担者 |
三澤 尚明 宮崎大学, 産業動物防疫リサーチセンター, 教授 (20229678)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 薬剤感受性試験 / マウス腸管定着モデル / 抗菌薬 / 再燃 |
研究実績の概要 |
H. cinaediによるヒトの菌血症や軟部組織の炎症などは、抗菌薬の投与により寛解するが、30~60%の患者で再燃するという報告もあり、有効な治療法は確立していない。そこで本年度は、H. cinaediの薬剤感受性試験およびマウス腸管定着モデルを用いた抗菌薬の投薬試験により、腸管からの効果的な菌の排除法について検討した。薬剤感受性試験の供試株として、ヒト菌血症由来株29株を用い、基準株としてH. cinaedi CCUG18818株を使用した。供試菌株のMICを測定した結果、イミペネム・シラスタチン合剤(IPM/CS)およびミノサイクリン(MINO)に対するMICが最も低かった。次に、Balb/cマウス(SPF、雄、6週齢)にH. cinaediヒト菌血症由来株を経口投与し、腸管内に定着させた後に抗菌薬を投与した。供試薬剤は、アンピリシン(ABPC)、IPM/CS、MINOの3剤で、マウスを各薬剤の単剤投与群とABPCとMINOの併用投与群の4群に分けた。腸管定着確認後、ABPCとMINOを各100mg/kg、IPM/CSは60mg/kgの用量で、1日1回ゾンデによる経口投与を5日間行い、糞便中の菌数を測定した。また抗菌薬投与20日後に安楽殺し、盲腸内容物、血液、筋肉および主要臓器の菌数を培養法により測定した。その結果、ABPCとMINOの併用投与群およびIPM/CS単独投与群では薬剤投与後いずれの検体からも接種菌は分離されなかった。MINOとABPCの単独投与ではなく併用投与によりH. cinaediの腸管からの排除効果が認められたこと、また、IPM/CSは経口薬ではないが、単剤経口投与でH. cinaediの排除効果が認められたことは、治療指針を立てる上で興味深い所見である。今後は菌の再燃の機序を解明し、治療法の確立につなげることが課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主要な目標であったマウス腸管定着モデルを用いた抗菌薬の効果的経口投与法の検討を行うことができた。腸管定着確認後の抗菌薬投与により、ABPCとMINOの併用投与群およびIPM/CS単独投与群では薬剤投与後いずれの検体からも接種菌は分離されなかった。ヒトの再燃症例同様、再び糞便や血液、腸管から菌が分離されるのではないかと疑われたが、長期間糞便から菌は分離されず、菌をマウスの体内から排除できたのではと考えられた。しかしながら、これらの結果については、来年度もう一度再現性試験を行う必要がある。また免疫低下マウスを用いた実験を行うため、マウス免疫抑制剤の投与法についても検討試験を行った。リンパ球に対する特異的かつ可逆的な免疫抑止作用を有するシクロスポリンを投与したが、コントロール群、投与群共に白血球数の上昇が確認された。さらに1頭については、直腸脱を起こしていた。H. cinaedi感染による腸管への小さなダメージが、シクロスポリンの投与によって腸管の炎症に繋がった可能性もあり、シクロスポリン投与法については今後さらに検討が必要である。 またT6SSがH. cinaediの病原性にどのように関連しているのかを明らかにするため、T6SS関連遺伝子のヒト由来株の欠損株を作製進めていた。エレクトロポーレーションによる形質転換について、条件を変えて何度も行うことにより、T6SSに関連していると考えられるCDSのTssG (baseplate)遺伝子について欠損株を作製することができた。
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今後の研究の推進方策 |
T6SS関連遺伝子(TssG)のヒト由来株の欠損株を用いて、欠損株と野生株の病原性を比較することにより、T6SSの役割を明らかにする。まず、ヒト腸管上皮細胞に対する付着・侵入能を調べ、野性株と比較する。付着試験は、ヒト結腸癌由来上皮細胞;CaCo-2に接種後、付着したH. cinaediを希釈培養法により計測することによって行う。侵入試験は、付着したH. cinaediをゲンタマイシン処理し、細胞侵入した菌のみを計測する。さらに共焦点レーザー顕微鏡、リアルタイム3D解析ソフトを用いて、細胞内侵入を三次元画像で確認する。また欠損株を用いたマウス感染試験を行う。作製した欠損株をマウスに投与し、その病原性について観察する。H. cinaediの経口投与後は、経時的に糞便・尿中のH. cinaediの計測(培養法、リアルタイムPCR法)を行う。また感染マウスから経時的に血清を採取し、H. cinaediに対する血中抗体価をイムノグロブリンクラスごとにELISA法により測定する。同様に血中のサイトカインまたはケモカインを定量的に測定する。H. cinaedi投与後1、2、4、8週間でマウスを安楽殺後、マウスの組織(脾臓、肝臓、肺、心臓、腎臓、小腸、大腸、盲腸、膀胱、筋肉)を採取し、細菌学的、病理組織学的および分子生物学的検査を行い、菌の分布や病理像を観察する。またフローサイトメトリーを用いて脾臓リンパ球のT細胞、B細胞のポピュレーション数を測定する。 また、今年度行ったマウス腸管定着モデルを用いた抗菌薬の効果的経口投与について、再現性試験を行い、論文投稿の準備を進める。
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