研究課題/領域番号 |
17K08086
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒井 健夫 日本大学, 生物資源科学部, 名誉教授 (50147667)
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研究分担者 |
伊藤 琢也 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20307820)
鈴木 由紀 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (30712492)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 吸血コウモリ / 狂犬病ウイルス / 分子疫学 / 次世代シーケンサー / 進化 |
研究実績の概要 |
南米では吸血コウモリが狂犬病ウイルス(RABV)を家畜やヒトに伝播している。しかし、分子進化学的な解析から、吸血コウモリは、食虫コウモリであるTadarida brasiliensisからRABVが伝播され、その後、南米に生息する吸血コウモリの集団間で感染が拡大した可能性が示唆されている。本研究は吸血コウモリ由来RABVの詳細な疫学に用いるRABVゲノムの全長塩基配列の決定を、次世代シーケンサー(NGS)を用いて進めている。しかし、NGSによる解析の過程で全長の塩基配列を決定することができない検体も存在したため、サンガー法によりシークエンスを行い、今年度は新たに4検体の全長配列を決定した。さらに、吸血コウモリ由来RABVと遺伝的に近縁な食果コウモリ由来RABVゲノムの全長配列の決定も行った。 また、これまで9組のプライマーペアを用いたマルチプレックスPCRのアンプリコンシークエンスを行っていたが、より簡易に塩基配列を決定する為にプレイマーペアの再検討を行い、4組のプライマーペアを用いたアンプリコンシークエンスに切り替えて、ブラジルの広範囲の地域で採取された吸血コウモリ由来RABVのライブラリ調整を進めた。 さらに、吸血コウモリおよびTadarida brasiliensisから分離されたRABVのN遺伝子領域を用いて分子系統樹解析を行った。その結果、Tadarida brasiliensisは北米から南米にかけて広範に分布しているが、吸血コウモリは、北米と中南米に分布する2つのT. brasiliensisの集団からRABVが伝播され、その後、RABVは中米から南米にかけて南下しながら吸血コウモリに拡散し、その過程で食果コウモリ(Artibeus属)にもRABVが伝播したことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で材料としている検体は感染した動物の脳組織から抽出したRNAであるため、宿主由来のRNAが多く含まれている。さらにウイルスRNAの断片化が進んでおり、RABVゲノムの全長領域の増幅が困難であった。そこでABVの全長ゲノム領域をカバーした増幅産物を得るために9組のプライマーペアを用いたマルチプレックスPCRを行ってきたが、検体によって増幅する遺伝子領域に偏りがあり、さらに増幅を確認しにくいプライマーペアも存在した。そこで、より多くの検体のNGS解析を効率的に進めるために、プライマーペアの再設計を行い、4組のプライマーペアを用いたPCR法に変更し、ライブラリ調整を進めている。 また、昨年度にNGSで塩基配列を決定した一部の検体の遺伝子領域が未解読であったため、サンガー法によりシークエンスを行い、新たに4検体の吸血コウモリ由来RABVの全長配列を決定した。さらに、吸血コウモリ由来RABVと比較するために、食果コウモリから分離されたRABVのL遺伝子領域をNGSにより決定し、全長配列を決定した。これまで、食果コウモリ由来RABVは吸血コウモリ由来RABVと遺伝的に非常に近縁であるため部分配列情報のみでは詳細な系統関係を比較することが困難であったが、全長配列を決定することによって食果コウモリ由来RABVも吸血コウモリ由来RABVと同様にウイルス感染環に地域性があることが明らかになった。 さらに、N遺伝子を用いた分子系統樹解析を行うことにより、吸血コウモリ由来RABVは中南米に生息するTadarida brasiliensisから中米に生息する吸血コウモリに伝播し、その後、南下しながら南米の吸血コウモリの間で感染が拡大した可能性が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
ブラジルは南米の広大な面積を占めている。そこで、これまでの分子系統樹解析で予測された吸血コウモリ由来RABVの南下がブラジルでも起きた可能性を検証する為に、ブラジルの様々な地域で分離された吸血コウモリ由来RABVゲノムの全長配列の決定を行い、分子疫学的な解析を行う。すでにライブラリ調整が終了している検体が複数存在するので、ライブラリの数が集まり次第、随時、NGS解析を行う。そして、吸血コウモリ由来RABVがブラジルに侵入した時期、侵入・拡散経路、拡散速度の予測を行う予定である。ブラジルではウシがヨーロッパから持ち込まれることによって吸血コウモリの個体数が増加し、それに伴いRABVの発生件数も増加した。そこで、RABVの集団サイズを推定することによって、吸血コウモリ由来RABVの感染が拡大した時期とウシの飼育頭数の推移や吸血コウモリの生態との関連についても解析していく予定である。 さらに、食果コウモリ由来RABVゲノムの全長配列を用いて、吸血コウモリと食果コウモリがどのような関わり合いによりRABVの感染環を維持しているのか、詳細な疫学解析を行う予定である。
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